【書評】教祖様への哀れみ。「神になりたかった男 回想の父・大川隆法」

9月28日に発売された本のレビューです
黒猫ドラネコ 2023.11.01
誰でも

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 今回は「神になりたかった男 回想の父・大川隆法」(幻冬舎)を紹介する。宗教団体・幸福の科学の教祖の人生を「分析」した一冊だ。

 著者の宏洋(ひろし)さんは隆法の長男でありながら、数年前に教団を離れてその実態を暴露し続けてきた。

 前作である「幸福の科学との訣別 私の父は大川隆法だった 」(文藝春秋)に続いて、この本もずっと構想にはあったそうだ。

 大川隆法が今春に急死したことで、良いタイミングといっては不謹慎だが、最も注目される時に発売できたことは間違いない。

 案の定、教団からの妨害もあったそうで、これからも色々されてしまうのだろうか。

 まずは著者の宏洋さんのことから。

 私が彼と知り合ったのは3年半ほど前だ。前作「~訣別」を読んで興味を持ち、ツイッター(現X)で絡み続けて相互フォローをさせてもらった。

 直に会ったのは、経営する赤坂のイベントBar「三代目」を訪れ、何度目の時だったか。オーナーとして閉店時間前に訪れた彼が、大勢のお客さんの中から「黒猫ドラネコさんはどちらに?」とわざわざ探して挨拶にきてくれた。

 YouTube動画で白目を剥いてトチ狂ったように叫んでいた様子とのギャップにやられてしまい、今どき珍しい礼儀正しい男だと思った。

 彼はカメラがない時はずっとそういう姿勢で、お客さんやファンにとても低姿勢だ。つまりビジネスに真摯でいるという当たり前のことができている。単に承認欲求が強く目立ちたがり屋なだけのユーチューバーならできないことだと思う。

 私のnote小説などを読んで楽しそうに感想を言ってくれたことが嬉しく、知り合ってから間もなくしてお互いに色んな相談をしたりされたりがあった。詳細を記すことはないが、なかなか頑固だなと思ったこともある。

 利害関係など抜きにして、私は役者としての彼が大好きだ。出演する舞台を何度も見に行かせてもらった。マジキチな危ない人物になって生き生きしている俳優・宏洋を見るのがひそかな趣味の一つ。彼はそういう役が本当によくハマる。

 そうして応援させてもらいたい一方で、ちょっと問題なのは、彼が好きそうな人(インフルエンサー系)は私はほとんど苦手だという事実だ。例えば今ならガーシー氏とか他にもいろいろ。

 そんなふうにちょっと過激なユーチューバー的な交友関係が気に入らなかったり、心配だったり、苦々しく思ったりする人は他にもいるだろう。

 実際アンチに転じてしまって、私に「なんで宏洋と仲良くするの」と言ってきた人もいる(逆に私のせいで彼がそう言われることもあるかもしれない)。割と悩んだこともあった。

 ただ、最近ある人が教えてくれたフレーズがある。『推しの全てを肯定する必要はない』。これはすごく腑に落ちて、何を言われても私はそういうスタンスでいたいと思った。

 そもそも彼と私は違う。何を言ったからって嗜好や行動を変える必要は全くないわけだし、それは誰だって同じこと。全て自分の気に入るようにして欲しいと思うのはエゴだろう。そういう当たり前のことが分からずに人を見限るのは虚しいことだと思う。

 いわくつきの宗教団体ではあるが裕福な家に生まれ、倫理観やら何やらを無視すれば後を継いで安泰だったはずのその地位を自ら棄て、一般社会で学んだことを生かしながら自分の人生を切り拓いてきた。

 今回の本にも「これが幸福というヤツなんじゃないか?」とある。

 彼は局地的な地位や名誉よりも大事なことに自ら気付き、出自の明暗を受け入れながら楽しく生きている。尊敬すべきことだし、私が応援したいと思う理由はそこが大きい。

 これからも宏洋さんの舞台を見て、お店に行きたいと思っている。

 …なんだか気持ちの悪いファンレターみたいになってしまった。絶対ないと思うけど、例えば参政党に入ったりした時は普通に縁を切るんだからね!

 で、そんな彼に初めて会った時、これだけはと思って尋ねたことがある。

 「あんな感じでも自分のお父さんなわけでしょう? ネットとかで色々とバカにされていることをどう思ってるの?」

 何のことはなく、当時から宏洋さん自身がすでに隆法をネタにしまくっていたのだから愚問ではあった。すぐに吐き捨てるように答えてくれた言葉が忘れられない。

 「自業自得でしょ」

 少しでも息子としての気恥ずかしさが出るようなら、今回のような本も当然なかったはずだ。

 最初のページ。隆法死去の知らせを見た時「感慨はなかった」とある。「結局、神にはなれなかったな、と僕は思った。つまり僕は『神の子』にならずに済んだというわけだ」と続いている。

 本書の軸になっているのは、タイトル通り「神になりたかった」人の分析だ。

 宗教家として成功した裏で、家庭はどうだったか、何をたくらみ、どんな失敗をして、それでも周囲の人間にどう持ち上げられてきたのか。

 誰しも親の性格や家庭環境に思ったこと、嫌な思い出をそのまま書くことはできるかもしれない。でもこの本の内容はそればかりではない。ちょっと失礼な言い方になるかもしれないが、思った以上に色々と調べた上で書かれている。

 隆法の過去の著書での自己紹介の変遷や、恋愛経験、親族との関係性(特に兄=宏洋さんのおじ)などからアプローチする、知られざる「人間・中川隆(本名)」の成り上がり人生。

 そして、その過程で著者が受けてきた仕打ちの数々を明かすことで、推察に説得力をもたせている。

 虫捕りを楽しむ隆法のために裏でカブトムシが用意され、教育係は評価されたくて子どものテストの成績を改竄して…こんな大人は嫌だと思うエピソードばかりだ。

 「教団の弱点は隆法の弱点でもある」との項も興味深かった。幸福の科学がどうやって大きくなってきたか、そして教祖亡き後にどうなっていくのかも綴られている。

 そんな中で、読み取ることができた強い思いは、恨みや憎しみより「哀れみ」だ。それが宏洋さんが出した一つの結論なのだろうと思う。

 コンプレックスの塊で、色んな夢を追いかけても叶わず、虚像を作り上げた寂しい人。そう浮かび上がった人物像は誰にも否定できない。事実はどうであれ、それが子から見た父親の姿だからだ。

 唯一、「お前に何が分かる」と抗議していいはずの本人はもういない。

 30年以上もの年月をかけ、書店の一角を占めるほどの多作で色付けされた「教祖」「唯一神」「エル・カンターレ」の肖像。信者以外の多くが「なんなんだこの人」と疑問に思っていたことの答えが、縁を切った長男のたった一冊で露わにされ、晒されている。

 そこにも悲哀を感じずにはいられない。

(黒猫ドラネコ)

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