【解説】「財務省解体デモ」のすべて。有志もカルトもごった煮でインフルエンサーが煽った珍ブーム
この記事を書き終えた14日、財務省前に演説に訪れたNHK党の立花孝志氏が暴漢に斬りつけられた。多くの人の恨みを買っている人物ではあるが、どんな事情であろうと暴力は許されるものではない。
事件は私の目の前で起き、犯人が取り押さえられ連行されるまでの一部始終を間近で見た。
動機などが明らかになり次第、現場の詳細を伝えたいと思う。
しばらく続くようだから一旦まとめておこう。ブームになっている「財務省解体デモ」だ。
結論から言うと、陰謀論を信じちゃった人達の春の祭典である。
昨今の「ネットDE真実」がSNSで繋がって現実社会に迷惑をかける集大成みたいな動きだと思っている。
「またそうやってすぐ『陰謀論』とか言いやがって」と思ったそこの君。まあ、思考停止せずに読み進めてくれたまえよ。

(財務省前で叫ぶ人々)
景気低迷への不満は誰しもあるだろう。しかし、今の財務省前で叫ばれているのは、陰謀論にハマり込んだ人とそれに乗せられた人たちの意見だ。
何度か現場を見たうえで断言する。ちらほら報道にも出ている「民衆の不満が爆発」「怒りで勢いが増している」なんて論調は大げさだし、記事に世論誘導の意図がないなら取材者のアンテナがあまりにも弱すぎる。
こういう目線も、いろんな思惑で「もっと盛り上がれ」と煽っている方々には「冷笑」なんて言われてしまうのだろうか。
しかし、数々のデモ現場を見てきたウォッチャーらの見解も概ね一致するはずだ。
断っておくが、デモをやるのは権利だし、苦しみの末の蜂起も悪いとは言わない。意味がないとの意見もあるが、個人的にはガス抜きとしてなら十分に意味もあると思う。(なんなら面白いからもっとやれと思うことも多い)
そして、財務省が本当に悪であるなら、この動きを止めろとは思わない。
もちろん何かの決定的な証拠や根拠をもって、本当に財務省が悪であることが確定したのであればの話だ。
根拠が希薄な珍ブームが広がらないように、有識者が「財務省だけのせいなのか?違うでしょう。落ち着いて」と説明していく必要があるだろう。
その解説をブームにすれば、景気回復への建設的な議論も深まりそうなものだ。そんなことをいくら丁寧に言っても、財務省前に来る連中は見ないかもしれないけど。

(財務省解体デモで掲げられている主張)
乱立する主催者
特徴的なのは主催者の乱立だろう。
色んなグループが代わる代わる仕切っている。「多くの人が立ちあがった」なんて革命のごとく捉えられがちだが、全く一枚岩ではないグダグダが面白い。
当初は昨年末頃、とある市民団体のアカウントから盛り上がりが作られた。そこで少年が演説したという動画などがバズり、「いま財務省前がアツいぞ」という流れができる。
かくして、これまで私が見てきたデモにいたような勢力がわらわらと乗っかってきた。
反ワクチンデモを仕切っていた集団、日本列島100万人プロジェクト、新党くにもり、塚口洋佑(元国民主権党で現在は新生民権党)、ラエリアン・ムーブメントの女性などなど…が、その日ごとに主催者となってデモを先導している。
積極的に参加するのは、過去にこれら主催のどこかのデモで叫んだり、旗や看板を作ってきた人達。
そんな春の陽気とともに活性化する強気でアレな勢力が騒ぐそばで、これまで独自に財務省前でデモを開催してきたという経済評論家・池戸万作氏のグループが演説している。
そこに、最近はなぜか黒川あつひこ(つばさの党)がカウンターデモを仕掛けに来る。
こうした勢力図が、現在の財務省前デモのすべてである。
トンデモウォッチャー的には、新党くにもりの加担で反ワクチンを一気に取りまとめた「国民運動」のように、どこの勢力が財務省前に群がる人たちをガッサーっとまとめて心を掴むかには注目しているが、そのへんの分析はいずれまた。
では、なんで急に財務省がターゲットになったのか?
「ザイム真理教」なる言葉を流行させた経済評論家が亡くなったことも拍車をかけたのも多少はあると思う。それに加え、SNSで怒りを膨らませた人々のデモの前段、基礎となる動きがある。反ワクチン勢力を軸にした「WHO脱退デモ」などだ。
コロナ禍から、前述のいくつかの団体や個人が、国会議事堂前や省庁周辺で「俺達が知っているネットの情報の方が正しいんだんだんだー」と頻繁にやってきた集会の延長に、今回の「財務省解体デモ」はある。
反ワクチンの主張などとは違い、税金に苦しんでいるのは誰しも同じなので「上級国民を許すな」という陰謀論は一般にも拡がりやすかったのだろう。それでブームになったのだと思う。
数々のアレなデモと決定的に違ったのは、Youtuberヒカルらの影響力だ。
彼らの発信で、日頃「利権がうんちゃら」「グローバリズムがどうたら」と言っているわけでもない若者たちまで「面白そうだから行ってみよう」となってしまった。
数十万規模のフォロワーを抱えるなどの大小さまざまな動画配信者らが再生数稼ぎでどんどん乗ってきた。
現場には「Youtubeを見て」「tiktokで上がっていたから」「ヒカルとネットニュースで」と話す人が何組もいた。
実はこれがなかなか始末が悪いことだ。若者が危険にさらされている。(後述)

(財務省前デモ)
ふんわりしたノリ
以前、厚労省前での反ワクデモで「貴方たちは机やロッカーの中にワクチンの書類を隠しているでしょう」と叫んだ人がいた。「ワクチンの何の書類なのか」「隠すことでどんな影響があるのか」は周囲の誰もツッコまない。
ほとんどそれと同じようなノリで、財務省の何が悪いか、根拠なんて二の次。「悪いことしているに違いない」で話が進んでしまっている。
何やらネットの有名人とか経済に詳しいっぽい人がこう言っていたらしき話を膨らませ、「消費税を廃止しろ」だけでなく「僕たちが考えた最高の経済政策」を口にする。
かろうじて池戸氏のグループが「積極財政への転換」を語ったり、その場で「経済とは何か」みたいな提言をしているようだが、この人らは「解体しろ」のような物騒なことは叫ばず、叫ぶ軍勢から離れて池戸氏を中心とした円のような集まり方をしていて大人しい。
どうやらブームによる他グループの加勢は嬉しいが、過激な内容にはあまり賛同していないらしい。さながら「経済評論家を囲む懇談会」である。
ウォッチャー目線では普通に面白くないので(そういう問題ではないが)財務省前でなく居酒屋とかでやってほしい。

(財務省前での池戸氏=右端=のグループ)
その他は、なんなら今まで財務省のことなんか何も考えていなかった人達で、こんなふんわりした主張でよくも乗り込んだなと思うような話ばかり。
「一回解体してみてダメだったら戻せばいいじゃない」みたいな言葉まで飛び交っている。
学級会で係決めやってんじゃねえんだぞ…。
現場にはテレビや新聞の記者が何人もうろついているが、一定の良識があれば「なんかふんわりしたこと言ってんな…なんの集まりだこれ」と思うだろう。
頼むからそのまま書いてほしい。あと主催者がどういう人物なのか調べてくれ。メディアはちゃんと真実を報道しろ。(ん?なんか変なニュアンスになってる…?)
SNS上は「デモを発信したから圧力がかかった」とか「デモの投稿が消されるらしい」との噂で、「きっと何者かが都合の悪いことを弾圧しているんだ!」みたいにさらに過熱しているようだ。
反ワク・陰謀論デモの時にも何度も見た流れで、結局こういう盛り上がり方なのである。
あーあ、もう…。
「私腹を肥やしている奴らがいるから」「失われた30年は財務省のせい」「財務省の中にいるのはほとんど日本人ではない」
そういう幻想を膨らませ、現実社会に持って来て叫んでいる人ばかりだ。
12日には、予告通りカウンターデモとして訪れた黒川にまで「貧乏は自分の責任であって財務省の責任ではありません」と何度も浴びせられていた。
この人に正論を言われるようではおしまいである。

(財務省前でカウンターデモを始めた黒川あつひこ)
訪れた若者が危険に
現場を見ていると、見学が目的の面白半分ばかりでもなく、ここにあるのが正義だと信じ始めているような若者もいる。
インフルエンサーは煽るだけ煽って何があっても責任を取らない。