ついに有罪判決。実名医師を侮辱した男が証言台から発したのは…(傍聴レポート)
埼玉医科大総合医療センター教授の岡秀昭医師をTwitter(X)上で誹謗中傷し、侮辱罪に問われた「反ワクチン」の男の裁判で、さいたま地裁は6日、検察の求刑通り罰金20万円の有罪判決を言い渡した。
弁護人は「批判の趣旨であり侮辱罪に該当しない」としていたが、江見健一裁判長は「身体的特徴や思考に対する否定的な評価を示し、被害者の所属も出して軽蔑を表す意図で侮辱したことは明らかであり、正当行為の余地はない」などと指摘。
量刑については「被害者への不満から侮辱を表明し、ネット上に残存する形の伝わりやすさからしても刑事責任は軽いものではない」とした。
X上には、医師や専門家またはその方々の味方をした者を攻撃したり揶揄したりして増長する反ワクチンのアカウント群が存在する。
コロナ禍の鬱憤晴らし、正義感のこじらせ、逆恨みなどでサークル化したものだ。
今回はそれら「反ワク界隈」の所業に刑事罰がついた初めてのケース。泣き寝入りせず対応し続けた岡教授の胆力の賜物であり、陰湿なネットリンチに楔を打ち込むことになった。
製薬会社に勤めた経歴がある被告人は、自身の友人への言及があったらしい岡氏に腹を立て、不特定多数が閲覧可能なネット空間で、ハンドルネーム「あのちゃん」などの複数のアカウントを使い、「ハゲのあたおか」「クズ中のクズ」などの執拗な誹謗中傷を繰り返していた。
法廷で見たところ、どこにでもいるような会社員の男だった。実年齢は分からないが、年の割になのか本当に若いのか分からないような、頬に張りのある顔立ちだった印象だ。
表情の癖なのか常に口を上向きにとがらせているように見えた。半そでのワイシャツに黒いスラックス姿で、メガネをかけ、標準体型よりはやや小柄か。
求刑通りの判決が言い渡されると、彼は納得したような、やけに余裕のある表情を浮かべていた。
以下、先月におこなわれた結審の裁判も傍聴してきたのでレポートする。
発言を制限される
5月15日、さいたま地裁302号法廷。
まずは検察側がその犯行の悪質性を指摘し「再犯の可能性が高い」として罰金20万円を求めた。
次に弁護人が無罪を主張。「穏当な表現ではなかったが、告訴人はYahoo!コメントのオーサーも務める社会的強者。批判的表現は広く違法性を棄却すべき。民事でも被害回復は可能」などと述べた。
弁護人はさらに、「今後は人を傷つけるような投稿は控える」と被告人が反省していることを明かし、「前科もなく、たとえ有罪としても情状酌量の余地はある」と主張した。
これで結審。被告人本人の口からも、その「反省」が示されたなら、無罪までは難しくとも減刑がどうか…といったところか。
ここまでなら、ごく普通の刑事裁判の流れだった。
裁判長に証言台へと促され、「審理を終えますが、何か言いたいことはありますか」
優しくそう問われた被告人は「あります。言わせていただきます」と発し、手元のファイルから紙を取り出して、言った。
「告訴人(岡教授)はフォロワーが二万人もいて、気にくわないアカウントを書き、支持者に攻撃させた事例があります。3件ほど、紹介させてもらいます」
顔から想像できるままの早口で、まるでプレゼンでもするかのように自信満々に解説を始めたのだ。
法廷に戦慄が走る。「(反省の弁じゃない…だと…?)」
一体どういうつもりなのか。弁護人が作ってきた流れが台無しじゃねえか。
やはり、すぐに裁判長が割り込んだ。
「関係ない。そういう発言は制限しますよ」
それまで穏やかだった裁判長が一変してやや強い口調で言い、傍聴席にいた10数人も思わず息を飲んだ。
予想外だったのは被告人も同じだろう。
「あ、そうですか。えーっと、でもですね…」