(書評)「アンビバレント~山上徹也が私だけに明かした謎の核心~」誰も見抜けなかった動機・・・。無力感と衝撃の1冊
今回は話題の1冊、『アンビバレント 山上徹也が私だけに明かした謎の核心』(26年5月27日発売、講談社)を紹介する。
著者は鈴木エイト(以下敬称略)。カルト宗教を追い続け、著作に『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』(小学館)『統一教会との格闘、22年』(角川新書)などがある。

(講談社から発売)
| 著者だけが気付いた真相
息を呑みながら読み進め、これは鈴木エイトの代表作になると確信した。
「安倍晋三元首相銃撃事件」。その真相に迫ったノンフィクションである。
これまでの彼は、取材活動を通じての濃厚なレポートを世に出し続けてきた。しかし、この「アンビバレント」は異質だ。鈴木エイト自身の言動の描写が多くない。淡々と文章が進んでいく。
序章と最終第9章を除いて、傍聴録で構成されている。できるだけ主観のない正確な再現で、この重大事件の公判を詳しく知ることができる。
山上徹也という男の性格が、その受け答えから分かる。細かいニュアンスまで記されている。例えば言葉の丁寧さや、言いよどみ、躊躇、時に疲れている様子、答えたこと、言えなかったことも。これらはテレビや新聞などのメディアでは端折られてしまう部分だろう。
その供述の内容は無慈悲な現実である。一人の男が、取り返しのつかない選択をするまでの記憶がここにある。兄の死、それを受けた母の行動、妹への思い・・・。愛する家族がカルト宗教によって壊れていき、そして重大犯罪へと走るまでの振り返りだ。
まるで法廷で聴いているかのような臨場感、のちに絶望と無力感が押し寄せる。
何の脚色もない。文体も落ち着いている。なのに、現実であると言い聞かせながら読まなければ、ジャーナリストの主人公が悲劇的背景のある殺人犯と向き合うストーリーの小説のようにさえ思えてくる。
それは最終章で色濃くなり、この本の全てになる。傍聴録から一転して、両者の情動が交差する面会シーンである。
公判ではついに、山上は自ら動機を明確に語ることはなかった。誰も聞き出すことができなかったのだ。それどころか、誰もが分からなくなっていた。
「安倍元総理が死ななければならなかったのは、殺害されなければならなかったのは、間違いだったと思っております」
そう言った。ならば、なぜ撃ったのか。なぜ銃殺しなければならなかったのか。どうも人ごとのようにも聞こえたはず。なのに、ほぼ全てのメディアはこれを「山上被告から出た懺悔の言葉」として報じた。
無期懲役の判決が出て、世間を震撼させた重大事件がひと段落したかのようになってしまった。
しかし、鈴木エイトだけは気付いた。違和感を集め、この事件の核心に辿り着く。確かに伏線はあったのだ。
山上にも認められている、カルト宗教の社会問題を最も深く正確に追い続けたジャーナリスト。その足を使った仕事で導き出されたのは驚愕の事実だった。
「気になっている言葉があります」
その問いに、山上は応じた。彼が言った『国益』とは・・・。面会しての二人きりの答え合わせに、異論を挟む余地はない。法廷では解き明かせなかった思いが明らかになる。
教団にダメージを与えるため著名な政治家を狙った・・・。そんな短絡的な話ではなかったのだ。
カルト宗教の凄惨な被害に遭った男はまだ、誰かを盲信しておかしくなっていく今の政治や社会を狙い、引き金に指をかけているのかもしれない。
| 黒猫の雑感
鈴木エイトさん(以下敬称戻す)は旧ジャニーズ問題、反ワクチンの問題にも取り組んできた尊敬するジャーナリストの一人だ。親しく交流させていただいて6年ほどになる。
実は私が世を忍ぶ黒猫ドラネコの姿でイベントなどに出るきっかけになったのは
