【潜入レポート】安倍元総理暗殺「真犯人は別にいる」に高齢者が感嘆。「真相求める会」の第一回講演
まず初めに、私個人には政治思想の偏りが一切ないことを断っておく。「工作員が」とか変な攻撃を受けてしまうので。
三寒四温を経て桜の季節へと向かう3月中旬の昼下がり。向かったのは、杉並区某所の真新しい公民館だ。
区民の憩いの施設で、このような集会が開かれようとは誰が想像しただろうか。
(施設の1階に出ていた案内の掲示)
「安倍元総理暗殺の真相を求める会」が主催した第一回講演会である。
この手の情報にアンテナを張り続ける私でも、これを受信してしまった5G以上の感度を恨むしかない。「お、ワクチンで埋め込まれたチップのおかげかな?」じゃないんだよ。知ってしまったからには行くしかない。ガイアが俺にそうしろと囁いている。ふざけんなガイア。
清掃の行き届いた1階ロビーには、正装の親子がずらりと待機していた。
さすがに「マジかよ…」と思わず声が出て泣きそうにもなったが、そこは早とちり。ホールで某地元スポーツ少年団の卒業記念式典があるようだった。
すぐ上の階で何やら「真相」とやらがタレ流されることは、できれば無垢な少年達には知らないままでいてもらいたいと思った。
高齢者ばかりの客層
3階大会議室へ。
…もう後戻りはできんぞ。巻き方を忘れちまったからな。
ついに入場だ。後方出入り口付近の長机で年配女性3人ほどが受付に勤しんでいた。あらかじめネットで入場予約はしていたが、予約の有無は問われず(どないやねん)、紙に住所と名前を書くように促された。
入場料1000円を渡すと、「懇親会はどうされますか。300円追加です」と言われたが、ひとまず持ち前の爽やかな笑顔のまま「ちょっとあとで考えますね」と告げる。
ここで本日の講演者が昨夏に出した自費出版本を勧められ、迷わず(という演技で)購入。
これが2000円か…。
(購入した本「奈良の変」と配られた色んなチラシ)
前方のホワイトボードにタイトルの紙が貼られ、横のスクリーンで「感謝 安倍晋三首相」などと在りし日の桜を見る会の写真などが流されている。
白い椅子と机が等間隔に並んで、いたって普通の使いやすそうな会議室。およそ140人収容の会場は7割ほどが埋まっていた。
全員とは言わないが、ほとんどが50代半ばから70代。男性の比率がやや高いだろうか。
何やらバッジがたくさんついた紺ジャケットなどを着て、険しい表情の方が多い印象だ。これまでのデモ観察などでよく見てきた方々のような貧しそうな感じとは少し違う。
スタッフも高齢だった。反対側座席の通路ではビッグモーター前社長に似たスーツ姿のおじ様がピンと背筋を伸ばし、ライトセーバーみたいな大きな赤い警棒を持って待機していた。
(講演タイトルと会場の様子)
定刻になった。
まずは「君が代」斉唱から。スクリーンの日の丸に向かい、全員が起立して歌う。この規模の講演会でこんな大声の国歌は久々に聞く。
個人的には歌うことが悪いとは全く思わないが、偏りを感じずにはいられない。
司会者のおじ様は「偏向報道から国民を守る会」の代表者だという。開演挨拶では、この会を結成した経緯と、かつて都内で「トランプ大統領を応援するデモ」を開催したことなどを誇りながら、講演者の紹介に入った。
講演者は、理学博士で札幌医科大学名誉教授の高田純氏である。
「マスコミが反応せずに黙殺の態度を続ける中、高田先生は物理学者としての科学的視点から山上容疑者は暗殺者ではない事実を証明されました」と司会者。
早くもツラい。どうして私がこんな講演会に…?(自分で来たんだろ)
司会者は、講演の前に「『テキサス親父・日本事務局』藤木氏からの手紙を預かっている」として、同氏の希望により「代読をお願いする」とした。
指名されたのは、最前列にいた漫画家はすみとしこ氏だ。立ち上がり、ハキハキとよく通る声で朗読した手紙の内容は、伊藤博文から始まる「過去に暗殺された日本の総理大臣経験者とその詳細」など。今回のテーマである安倍元首相の事件については、「あまりにも山上の供述にある某宗教団体などの理由が直接的ではない」「奈良医大病院と警察の説明の矛盾がある」などとし、「今でも周辺ビルに狙撃手がいて容疑者とされている人物は煙幕だったのではと疑っている」「真実の究明にご協力をお願いしたい」と結んだ。
聴衆の多くは眉間に皺を寄せながらウンウンと頷いている。
おい読者のお前ら何ビビってんだ?
まだ講演会は始まっていないんだぜえ?へっへっへー(ヤケクソ)
(マイクを握るはすみとしこ氏と司会者の男性)
司会者から「もしも本の内容が科学的にデタラメだったら過去に築き上げた名声が地に落ちるのに、リスクがありながら高田先生は出版された」などとダメ押しのダメ押しみたいな紹介があり、スクリーン用に会場が薄暗くなる。
ついに高田純氏の90分間の講演は始まった。
「シュッピ」の音ォ
高田氏は、話す内容が整理されておらず、やや緊張気味にも感じた。この手の講演を数多くこなしてきたわけではないのだろうか。
ただ、内容はともかく、ハイトーンの大声で進めていく様子には「先生」を疑うものはなく、内容はともかくちょっとした迫力と説得力があった。内容はともかく。
まず、入り口で売られていた「奈良の変」を自費で出版した経緯から。「全ての出版社に直前で断られた。月刊WiLLにも載る文章なのに」と、なんらかの圧力を感じたらしく、呆れたように怒りを表明していた。
しかしTwitter(現X)で多くの支持をもらったことには自信を持ったようだ。
「山上が撃ったんじゃないと言ってからTwitterのフォロワーが6万人に増えてたくさん情報が来る」
「スマホの時代はみんなが撮れるから、捜査は警察だけのものじゃなくなった」
そんなことを熱っぽく語った。
(本を手に講演する高田純氏)
このあたりで、遅刻して入場して来たおじいさんが「耳が悪いから」などと大声で知り合いを探し始めてしまい、会場内は一時混乱。講演の内容が内容だけに邪魔が入ったのかと一瞬ピリつく。
高田氏も「静かにしてもらえませんか!」と怒って中断したものの、なんとかそのまま続いた。
「首謀者不明の7・8(銃撃があった日)」「あれで政治もマスコミも壊れてしまい、今はゲイやレズも認めて婚姻まで認めろとか言い出した」「政治を破壊する力が背景にあったんだと思う」などのかなり偏った強めの持論を披露し続ける高田センセイ。
会場の高齢者たちは腕を組んで何度も頷き、熱心にメモを取ったりする姿が目立った。
山上容疑者が狙撃手ではないという「真相」として、高田氏が最も推しているらしき証拠は「音」だった。YouTube動画なのかニュース映像からなのか、「分析した」との発砲音を何度かスローで流した。
高田氏によると一発目の「ドゥオーン」のあとに「シュッピ」と聴こえるそうだ。その「シュッピ」こそ、本物の銃弾が体に撃ち込まれた瞬間に安倍元首相の持っていたマイクが拾った音なのだという。
聞こえなくもなかったが、ただのノイズにも思える。とりあえず「マイクが拾った」の根拠は私にはよく分からなかった。
高田氏によると「山上の役割はマジックでいうミスディレクション」。派手に大きな発砲音と煙を出して注目を集め、そこで消音銃などが使われた可能性があるのだという。
「狙撃手はみんなの見ていなかった後ろの方にいたら見えない。そんなふうに直感した。山上が真の狙撃手じゃない場合は、反対側から撃っている」
これらの説は高田氏のXなどで紹介されているようなので、もし興味のある方はどうかもっと他のことに興味を向けてほしいと思う。
ジャーナリストへの失望
順不同に言いたいことを言っていくスタイルの講演ではあるが、会場からは止めどなく「ほぉ…」「あぁ…」などと感嘆の声が漏れていた。
「防犯カメラには真犯人が映っているはずなのに捜査しない。追求できなくするために奈良県警本部長と警察庁長官を辞任させた」
「スナイパーが撃った組織犯罪であったということになる。山上は犯人ではないとは言いませんが、役割を持っていた」
などなどの断定とも推察ともつかない説が次々と放たれた。
高田氏はまた、以前から自身と繋がりがあったという著名ジャーナリストの名前を出し、「櫻井よしこさんにも(これらの持説を)送ったけれど黙殺です。これは非常にショックな出来事だった」と述べた。「アメリカに近い人だから、何か関係があるのかなと思っちゃう」と失望した様子。
同じく参議院議員の青山繁晴氏にも送ったそうだが、「みんな無言です。政治崩壊した日本」などと話すと、保守系論客に見放されてしまったことを一斉に嘆くように、会場から「う~ん…」「かぁ…」などと唸り声が上がった。
自費出版本「奈良の変」について、高田氏は「住んでいる地域の図書館に置かれるように皆さんで働きかけてはいかがですか」と、お願いする立場からはちょっとどうかと思うような言い方をし、「国会図書館にも2冊蔵書されている」ということだった。
調べてみると国会図書館は自費出版でも納本する義務があるらしく、持参したり送ったりができるらしい。なぜそれに胸を張っているのかは、今の未熟な私にはちょっとよく分からなかった。
(講演で銃弾の角度などを身振り手振り語る高田氏)
ノンフィクション「ゼブラゾーン」
本の宣伝ばかりになってきて30分ほど過ぎ、「何時までですか?」と司会者に確認する高田氏。あと50分以上もあることが分かると、何を話そうかとばかりに、しばらくスライドを漁り始めた。
私もトークイベントを何度かやっているので、この無言の時間が会場にとっても登壇者にとってもツラいことは痛いほど分かる。生まれて初めて高田氏を応援したい気分になった。
思い出したように「安倍さんの誕生から結婚や議員になって総理になるまでを絵本にしたんですよ。40枚も絵を描いたんです」とすごく嬉しそうに話し、これには会場も温かい空気になった。私を除いて。(応援してやれよ)
まさかその絵本をここで披露するのかとグッと身構えたが、それはまだ出せないらしい。とりあえず、悩んだ末にスクリーンに何を流すのか方針は決まったようだ。
趣旨の説明もなく唐突に流されたのは、安倍元総理の銃撃事件の一部始終を書いた高田氏渾身のノンフィクション劇「ゼブラゾーン」である。
駅前の事件現場を再現する簡素な絵の上に、アクリルフィギュアみたいな山上容疑者の写真が左右ウロウロする動画が流された。
これに、まったく抑揚のないAI音声が乗り、15分も朗読されることになる。
「7月8日午前10時ゴロ、灰色ノポロシャツ、作業ズボン、黒イショルダーバッグノ黒縁メガネノ小柄ナ男ガ、大和西大寺駅ノ北口ニ現レ…」
さすがに怖くなってきた。いや今までが怖くなかったわけじゃない。でも、もしかしたら自分は前世で何か罪を犯したから今こんな怖い場所にいるのかもしれないなと少し涙ぐんでしまう。(自分で潜入してんだろって)
あまりに暇になったので、受付で2000円も出して買った自費出版本を眺める。
そういえば買う時に寄付の上乗せがどうこう言っていて、調べたら実は定価1500円だったこととかを知ってまた悲しくなってきたが、手持ち無沙汰にパラパラとめくってみる。
ななな、なんと!
今まさにAI音声が私の鼓膜を領海侵犯するノンフィクション「ゼブラゾーン」が、本の13ページから21ページまで丸々そのまま載っているではないか。よく見ると、スライドの下にもそう書いてある。
お、お、各々が勝手に読めば済むものをAI音声でわざわざ長々と…!?
くぅ、痺れるぜぇッ!(まあ夜中に書いてるとこうなるわな)
本を開く人が少ないので、観衆はほぼ気付いていないのだろう。
しかし、このことがきっかけで、それまで確かに熱みたいなものがあった会場内に、ある「変化」が起こってしまうのだ。