<インタビュー>「スピリチュアル教祖になった主婦~天使さまと呼ばないで~」の原作者・小咲ももさん
「スピリチュアル教祖になった主婦 ~天使さまと呼ばないで~」
どこにでもいる女性が「天使さま」と崇められ、カウンセリングで大金を稼いでいくうちに、人生が少しずつ破滅に向かっていく……。
「スピリチュアル教祖になった主婦 ~天使さまと呼ばないで~」は、レタスクラブ(net)で昨秋から連載が始まり、1月18日現在で最新第9回まで掲載されています。
連載開始の特別企画として、原作者の小咲ももさんにインタビューさせていただきました。
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小咲さんはnote小説「天使さまと呼ばないで」が評判になり、編集さんに声をかけてもらって漫画化したとのこと。
私もnote小説がきっかけで声をかけてもらって2022~23年に「妻が子宮カルトに沼りました」(LINEマンガ)を連載しました。原作者としての喜びや力を入れたい部分などがとてもよく分かります。
今回は誕生秘話、そして共通のテーマでもあるエセ・スピリチュアルへの考え方などを存分に語り合いました。どうぞご覧ください。
きっかけは黒猫の小説
黒猫ドラネコ(以下黒猫) note小説からの漫画化ということで、私と全く同じですね。
小咲もも(以下小咲) はい。それに、小説を書いたきっかけは、黒猫さんの「子宮の詩が聴こえない(妻が子宮カルトに沼りましたの原作)」を読んだことなんです!
黒猫 ありがたいです。そういう広がりを最も期待していたので。
小咲 こちらこそ、黒猫さんがいなかったら、お話を思いつくことはなかったと思うので、ありがとうございます。「子宮の詩」は信者の家族視点ですが、それを読んで「教祖側の視点で書いたら…」と考えてみたら物語がどんどん映像として浮かんできて止まらなくなったんです。
黒猫 主婦が教祖様になっていくストーリーですよね。モデルや参考にした話はあるのでしょうか?
小咲 教祖になる主人公ミカのモデルというか思考回路は、若い時の自分と同じです(笑)
黒猫 え、あんな性格の…と言ったら失礼ですが、ちょっと意外ですね。
小咲 そうですか?都合が悪くなると被害者アピールをしたり、他人と比較して安心したり妬んだりするところは過去の自分そのものです。自分のイヤ~な部分を詰め込みました(笑)
黒猫 スピにハマっていくところも?
小咲 私もスピリチュアルな話は好きですが、うちの母がスピ界隈に詳しいので、スピあるあるエピソードなどは母や周りから着想を得ているのが多いですね。ちなみに母もこの作品を読んでいます。
黒猫 私も原作小説で力を入れましたが、あるあるを散りばめるのはポイントですよね。
小咲 リアリティが出ますよね。使いがちな文章や、言葉は立派だけど行動が伴っていないことなど「いるいるこういう人」と思いながら読んでもらえると嬉しいです!
(第7回より)
黒猫 小咲さんも主人公ミカと同じで主婦をされているとか。
小咲 4児の母で、専業主婦です。
黒猫 娘さんとの日々などエッセイ漫画も人気ですね。どんなきっかけで発信するように?
小咲 育児の合間はついだらだら過ごしてしまうことが多くて、何か生産的な趣味をつくりたいと考えて、生きづらさのあった自分が生きるのに楽になった考え方を発信しようとTwitter(現X)を始めました。今は育児で気づいたことや勉強になったこともシェアしています。
黒猫 それで小説も書き始めたんですね。評判になって、スピから抜け出した人からも称賛されていますね。
小咲 はい。「おかげで高額なスピリチュアル詐欺から抜け出せた」という声を頂いたことは何より嬉しかったです。また「かつて自分もミカのように教祖になりかけていた」との感想もあって、ご自身を省みるきっかけにしてくださったことも嬉しかったですね。
黒猫 私もそうでしたが、実体験からの感想はありがたいものですよね。作品のテーマもくみ取ってもらえているから。
小咲 自分なりに思う「なぜ人はスピにハマるのか」や「幸福とは何か」についても書いているので、読んでくださった方が考えるきっかけになると嬉しいですね。
漫画化にあたって起きた奇跡
黒猫 note小説から4年でついに漫画化しましたね。
小咲 昨年の初めにXに中学時代のエピソードを書いたらバズって、宣伝で小説のリンクを貼ったんです。そしたらKADOKAWAの編集さんが読んでくださって、そこからコミカライズのお声がかかりました。
黒猫 編集さん、よくぞ見つけてくれたって感じですね。漫画化はもともと望んでいたんですか?
小咲 実は友達と地元のとある神社に行った時に「いつかドラマ化しますように」とお願いをしたんです。そしたらその日の夜に編集さんの連絡が来たものですから、スピリチュアルビジネスを批判する作品でめちゃくちゃスピを感じるという…不思議なことになりました。
黒猫 うーん、それは誰でも何か感じるかも(笑)
小咲 でも、コミカライズが決まってからはなかなか作画の方が見つからず…昨今はコミカライズブームで、漫画家さんが不足しているらしくて。
黒猫 私の時もそうでした。すごく綺麗な絵を描いてくれる良い漫画家さんがついてくださったので結果的に良かったですけど。
小咲 そうだったんですね。黒猫さんの漫画も、スタイリッシュで美麗な絵でしたよね!私も絵が上手な方、もしくは作品に愛を持ってくださる方に作画を担当してほしい!と思っていました。そのどちらも兼ね備えた稲美杉先生(@inamisugi)が作画を担当してくださったので本当に嬉しいです。
黒猫 絵が綺麗で見やすくていいですよね。良い人が見つかったんですね。
小咲 それが、漫画家さんがあまりに見つからないので諦めて自分で描くつもりでiPadまで買って漫画の勉強もしていたんです。でも編集さんと打ち合わせが終わって「さあ描くぞ~」と意気込んだ翌日、稲先生からメッセージが来て、それが「小説連載時からのファンでした。よければ漫画化させてくれませんか」という内容でした。稲先生はコミカライズの企画を全くご存知でなかったのに連絡をくださったんです。
黒猫 うーん…それはもうスピ批判できなくなりそうなぐらいの奇跡だ(笑)
小咲 びっくりしました!
編集さんはありがたい
黒猫 漫画化にあたって期待したことはありましたか?
小咲 やはり「ビジュアル」です。クセの強い人々を稲先生が「いるいるこういう人~!」と言いたくなる絶妙な絵で表現してくださっているので、そこを楽しんでもらえたら。
黒猫 キャラクターの濃さは原作者としても楽しみですよね。小説と違って視覚的なインパクトを出せますから。
小咲 小説はどうしてもとっつきにくい印象の方もいると思うのですが、漫画ならより多くの人に楽しんでもらえるかと思います。
黒猫 編集さんとのやりとりで気付いたこと、助かったことなどはありますか?
小咲 第三者の冷静な視点で見てくださることと、「こんな心情だからこういうセリフはどうか?」というふうに、キャラクターの気持ちや背景をきちんと考えてくださるのはとてもありがたいですね。
黒猫 私の編集さんもそうでしたが、漫画への情熱というか、読者にどう届けるかをプロの目線で考えてくれますよね。
小咲 これだけの長い作品だと、出版社によっては内容を変更するよう言われることもあるようなのですが、原作小説に忠実に描かせてもらえていて、めちゃめちゃありがたいです。
黒猫 スピへの批判的表現とかも変えてないんですよね。というのは、その、出版社さん的にはそういう本もたくさん出していますけど…。
小咲 スピリチュアルな書籍も扱っているのに、批判的に描く作品を載せていいのか最初に確認したのですが、かなりおおらかでした。
黒猫 へえ!実はKADOKAWAからと聞いて「けっこうスピ本も出してるけど大丈夫か」と思っていました。さすが度量が広い。万が一、社内で不当な圧力がかかったら取材させてと編集さんにお伝えください(笑)
小咲さんが思うエセスピ
黒猫 私の「子宮カルト」もそうですが、作品テーマのいわゆるエセ・スピリチュアルにハマっていくことに対してはどのように思っていますか?
小咲 エセスピというと「当たらない」「インチキ」というイメージがあると思うのですが、私は当たる・当たらないで批判すると、依存は無くせないと考えています。
黒猫 当たらないからインチキだとか、当たるから買ってもOKではないと?
小咲 ええ。未来に何があるか分かるという人に、あまりに色々と言い当てられると、欲が出て沢山のことを聞きたくなってしまいますよね。教えてもらえたら楽ができる、嫌な目に遭わずに済む気がしてくる。その感覚に陥ることにこそ依存の原因があるのではと思います。
黒猫 楽して答えが見つかるのがよくない。
小咲 はい。もちろん参考程度ならいいと思うんですが、「スピリチュアルの力がなくても、自分は(問題を)乗り越えられる、幸せになれる」と信じることが大切なのではないかと。その自信がないと、インチキだろうがそうでなかろうが「何かすごそう」「自分より知っていそう」な人に会うと、依存したくなってしまうし、縋りたくなってしまいます。
黒猫 エセスピって、オリジナル理論をこねくりまわして、縋る人を信者にしてお金をまきあげる人達ですからね。
小咲 お金を使うことが全て悪いとは思っていません。お守りなどは、努力を少し後押ししてくれることもあると思います。でも、スピにお金を出すこと自体が幸せに直結するわけではない、と意識するのが大切だと思います。
(第1回より)
エセスピにハマった人へのアプローチ
黒猫 ハマりきった人をどうにかするのは、私は難しいと思うんです。
小咲 そうですね。全否定するより「まあ、そんな世界もあるよね」と受容するほうがいいのではと考えています。
黒猫 一対一の場合でしょうけど、まずは同調するのが「脱会」への近道と言いますよね。
小咲 ええ。先ほどの漫画化が決まった時の不思議な出来事もそうですが、私自身スピリチュアルな経験はいろいろしてきました。スピを信じているからこそ、時折の不思議なことは「そんなこともあるよね」と流すことができています。
黒猫 大事だと思います。あれもこれもそうだってなっちゃうとただのキツい人ですから。偶然もあるし不思議な話は不思議な話で、頑なに全否定も難しい。
小咲 それに、スピリチュアルを全否定して生きていると、「信じざるを得ないぐらい不思議なこと」に出会ってしまったときに、目の前のものを強く崇拝してしまうのではないかと思います。だから「たまにある」「誰にも起きうる」と考えて特別視しないほうが、依存せず健全に生きられるのではないでしょうか。
黒猫 私も全否定はしません。ただ、世の中には騙す人と騙される人がいると伝えたくて批判的な活動を続けています。エセスピ批判をするうえで気を付けていることはありますか?
小咲 そうですね、「母や友人に対しても同じことが言えるか」を基準にしています。言えないと感じたなら、それは言い過ぎだったり、自分の承認欲求を満たすため言ったりしていることが多いと思うので…。私はけっこう毒舌で、その基準でもあまり優しくはないかもしれないのですが。
黒猫 優しいと思いますよ。SNSでも強い言葉で否定していませんもんね。
小咲 でも、私みたいなタイプの言葉は、信者の人が立ち止まるきっかけにはなるかもしれないけど、悪意を持って活動している人を倒すことはできないんですよ。黒猫さんは、私にできないやりかたで、おかしいものにおかしいと声を上げていらっしゃる。強い言葉を使うのも、信念があるからだと思います。
黒猫 最近は強く言わないように気を付けています(笑)
小咲 ふふふ。悪意を持って活動する人とただ戦うのではなくて、持ち前のユーモアでたくさんの人を惹きつけながら戦っているところも尊敬しています。
黒猫 恐縮です。加減も難しいんですが、ちょっぴり意識している部分ではあります。
小咲 自分と考え方の違う人と対峙するのって、とてもエネルギーのいることです。私も挑戦したことがありましたが、ほとんどの人は第一印象で人のことを決めつけるし、大体が徒労に終わります。私にはそのエネルギーはないと思って諦めました。黒猫さんは、あんなにエネルギーのいることを何年も続けていらっしゃる。本当にすごいことです。
黒猫 褒めてもらってばかり(笑)あまり自分のことを言うのもあれなんですが、もともと理不尽なことには口を出すタイプで。正義感まではいかないけど、こっちに理があるとなれば戦う感じかなあ。
小咲 すごいです!私は全然そういうタイプではなくて。たぶん、戦うことにあまり向いてないんだと思います。人の意見に左右されやすいうえに、間違ってないかいつも不安だし、周りの目が気になるし、悪意に鈍いタイプなのですぐ言いくるめられるし、ちょっと優しくされるとすぐ良い人だと思って。戦場に出ると敵に利用されるタイプだと思います(笑)
黒猫 作中でも主人公ミカの性格に現れているのかもしれませんね。
今後の見所は
小咲 黒猫さんがすごいのは「戦い続けている」ところです。しかもユーモアを交えながら。だから黒猫さんは黒猫さんのやり方で、これからも怪しいものやおかしいと思うものを批判してほしいです。
黒猫 漫画を宣伝するインタビューなのに私が励ましてもらっている…(笑)ところで、漫画原作以外ではどんな発信をしたいとかありますか?
小咲 せっかくiPadを買ったし、ゆるーい4コマなんかも描いてみようかな、と考えています。昔作ったスタンプに出てくる、怪しい科学者のウサギのキャラクターがいるんですが、それを主人公に偽科学についての4コマを描きたいなって(笑)エッセイで書きたいテーマはたくさんあるので、時間をみつけていろいろ描きたいですね。
(小咲さんによるウサギ氏のLINEスタンプ)
黒猫 最後に、「天使さま」の連載もこれからますます面白いところだと思います。原作者的には今後の見所は?
小咲 主人公ミカが成功していくにつれて、ミカの黒い部分もたくさん出てきます。信者に毒を吐いたり、アンチの声を揉み消そうとしたり…稲先生が絶妙な表情でその腹黒さを表現してくださっているので、そうした"黒いミカ"と"天使のようなミカ"のギャップを楽しんでもらいたいです。
黒猫 いよいよ「スピ教祖」になっていく様子は注目ですね。これからの展開も期待して、応援しています。
(企画・構成 黒猫ドラネコ)
(スピで稼ぎはじめたミカの行く末は…?)
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