依然続く「安倍元総理暗殺の真犯人を」集会。学者、弁護士、維新議員らが旧統一教会に加担

すごく怖いと思うイベントです
黒猫ドラネコ 2025.07.14
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***

参院選のさなかで安倍晋三元総理が凶弾に倒れてから3年が経った。

誰もが衝撃を受けたあの事件をめぐり、陰謀論で盛り上がるグループはいまだに存在する。

それが、「真犯人を探れ」の方々だ。

▽昨春の集会

これまで観察してきた数々のトンデモの中で最も恐怖を覚える案件。昨年に続いて今年5月、7月と立て続けに開催された集会に参加し、震えながらメモをとってきたので詳報する。

【日比谷】

5月13日、日比谷公園の地下にある図書文化館コンベンションホールで「安倍元首相暗殺の真相を求める国民集会『暗殺事件の裏に隠された真相とは何か!』」が開催された。

高齢者ばかりの200人が参加していた。

(在りし日の映像が流される会場)

(在りし日の映像が流される会場)

ゲストは弁護士の徳永信一氏。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の代理人を務めている。

この「真相を―」のイベントには、旧統一教会信者らが集まっているのだ。(後述)

徳永弁護士は、講演では「陰謀論」にはそこまで深く踏み込む気はないように思えたが、それでもJFK暗殺との関連性などにも触れつつ、終始「山上が犯人かどうかは疑わしい」との論調だった。

おいおい…。

(講演した徳永弁護士)

(講演した徳永弁護士)

山上被告は何らかのコマに使われた可能性があるそうで、本人は「自分が打って殺した」と考えていても、それが真実かどうかは分からないとのこと。

弁護士の立場として「死亡原因になったかどうかについては合理的な疑問があります。弁護人は死については争います、と僕は言うべき事案だなというふうに思っています」などと語っていた。

会場にはゲストというわけではなく招かれた人々が。スピーチすると思っていなかったと話すのは慶応大学名誉教授の小林節氏だ。

会ってみたかったという徳永弁護士に同調して言った。

「全く異論ありません。山上君は後ろから打ってる。どう見ても後ろから弾が入ってない。それから医大教授の記者会見はテレビで見ましたし、もう明らか(におかし)な部分ですよね」

この著名な憲法学者ですら「真犯人は別にいる」を支持。これは割ととんでもないことで、客席も思わず「おぉ…」と唸っていた。あーあ。

なお、小林氏は徳永氏が請け負った旧統一教会関連の裁判を持ち出し「なぜ負けたのか」と納得できない様子だった。

(スピーチした慶大名誉教授の小林節氏)

(スピーチした慶大名誉教授の小林節氏)

次にジャーナリスト福田ますみ氏がステージに立った。

「山上が撃つタイミングで別から撃つというのは至難の業」として「真犯人が別にいる説」には否定的な立場を明確にした。

そして「何らかの陰謀があったとすれば、山上は損な役回りを引き受けるだろうか」と疑問を抱いていた。会場ではこの話に顔をしかめて首を捻る人もいて、我々に賛同してくれないのかな…という空気感があった。

しかし最終的に福田氏は「多分『やや日刊カルト(新聞)』とかから、かなり影響を受けている。彼(山上被告)は『安倍ガー』の人で、統一教会と安倍さんをおかしな理由で無理やりくっつけてやったんじゃないかなと。私は今のところそう思っていますが、事実はよく分からないです」と、よく分からない結論で切り上げていた。

なんとか会場の空気に配慮した形に落ち着いたようだ。

(発言したジャーナリストの福田氏)

(発言したジャーナリストの福田氏)

続いて発言したのは大分県議会議員の三浦よしのり氏(日本維新の会所属)。なぜここにいるのか、札幌に向かう途中に「面白そうな講演会がある」として立ち寄ったらしい。

「この事件があったとき、最初やっぱりケネディと一緒じゃないかという感じを受けました」と三浦議員。この人はバキバキにそっち寄りのようだ。

自身が理系ということで、これまでの議員活動でもデータとエビデンスを持って行政にぶつけているそうだが、しかし記者クラブを通じて「ストーリー」で広められてしまうとの不満をぶちまけた。

「おかしいですと言っても私が陰謀論者に(される)。おそらくこの事件もそういう形になるんじゃないか」

事実が捻じ曲げられるのを危惧している、と。ここにいる人達が話す「事実」とは「山上は犯人ではない」なのだが…。

「国民に真実を知らせるのは重要」として、徳永氏の講演を持ち上げていた。県議会議員でこの思考の危うさは注視しておいた方がいいんじゃないのか。ねえ、維新さん。

(登壇した大分県議の三浦氏)

(登壇した大分県議の三浦氏)

このあと、客席からの質疑応答の時間になり、徳永弁護士への熱心な質問は続いた。

【永田町】

7月5日午後、星陵会館で行われたのは、「安倍晋三記念講演会2025」。これも「真相会」が関わるイベントである。やはり年齢層は高めで200人ほどが参加した。

ゲストには物理学者で放射線を専門とする高田純氏(札幌医科大学名誉教授)。昨年の集会をはじめ、これまでネット上の「山上は犯人ではない」説を牽引してきたインフルエンサーだ。

(星陵会館での集会の様子)

(星陵会館での集会の様子)

その根拠は、動画の音をコマ送りなどで解析したというもの。

山上被告が出した銃音の「ドゥオーン」の後の「シュッピ」という音が、別角度から安倍元首相の首筋を撃ち抜く音なのだそうで…。高田氏はそんな自論を披露し続けている。

この人の言うことの何をどう信じたらいいのか私にはさっぱり分からないが、しかし私以外の観客はおそらく「権威ある科学者がその立場が危うくなることも顧みずに主張している」ということで、すっかりこの人に心酔しているのだった。

高田氏は講演に先立ち、趣味の絵の話をした。「安倍龍が天に昇っていく」という構図を思いついて、掛け軸を手作りしては譲っているそうだ。はあ…。

そして、「われらの安倍さん物語」なる絵本の動画をスクリーンに映した。はあ…。

なんかいろいろ凄いし、いろいろ怖いなと思いながら私は見ていたが、会場の皆さんは見入っている。みんな目が怖い。

(安倍元総理の物語だという自作絵本が披露された)

(安倍元総理の物語だという自作絵本が披露された)

(スクリーンに映された自作絵本)

(スクリーンに映された自作絵本)

高田氏の講演自体は、昨年のそれから特に進展した内容はない。相変わらず「奈良県警などが嘘をついている」「スナイパーは別にいる」という展開だった。

「ネット上に結集した3万人(?)の専門家の人たちが映像を見ながら分析して検証している。地元の仲間は現場に赴き、一つ一つ映像と照らし合わせ、角度や距離について喋っている。一人の解釈だけではなくて、多くの見方から真実は何だったのかと追求した」

そして、出版社に断られたり、「山上単独犯ではない」との意見を何度も総理官邸に出したり(!?)したという、この活動の苦労話に突入した。

すると、会場のほとんどが聞き飽きているのか、ご高齢であるためか、ギラギラだったおめめを静かに閉じ、半分ぐらいの観客がスヤスヤの時間に入ってしまった。これは悲しい…。

高田氏は事件を「奈良の変」と名付けている。(「本能寺の変」などに倣ったのだとか)。そのネーミングで自費出版もしており、会場内では通販の告知もされていた。

「奈良県知事もどうも関係しているかもしれない。奈良市長はだいぶ関係しているようにも見える。どう呼んだらいいのかなと思って、広範囲な人たちが関わっているということで、奈良という全体に『変』をつけた。この『奈良の変』の後、政変のように自民党、政府の中に大きな変化が起こってくる」と高田氏。

奈良の人達から強めに怒られた方がいいと思うぞ。

(講演に熱が入る高田氏)

(講演に熱が入る高田氏)

そうした「なんらかの利権が…!」の疑いから、高田氏の話はどんどん膨らんでいった。

「イエス・キリストの公開処刑と繋がってくると思う。時の権力がイエスを捕らえて処刑した。権力に売った裏切り者が弟子の中に出てくる。安倍さんの仲間、自民党です。その中に裏切り者がいた。一人じゃない」

そして「安倍さん亡き後に反日的法案(高田氏談)のLGBT理解増進法、選択的夫婦別姓などが出て来た」とかどうたらこうたらと語り、こうした「真相」を暴こうとすると圧力がかかって「権力に覆い隠される」と、怒りを持って主張した。

うーむ、圧力かあ…。あのね、ここは永田町なのよ。ここから徒歩2分の所に自民党本部があるけど、いま思いっきり普通にこんな集会をやれている訳だよ。全く圧力なんてなさそうなんだけど、そのへんはどう捉えて…いや、いいんだけどね別に。

このほか、事件当時の映像にあったセーラー服の女子高生が中国共産党の工作員である可能性が高い、などの話が展開された。同じ制服の学校は近くにないそうだ。

えっと、なんで中共工作員は地元の制服を入手せずにあなた方なんかの映像分析でバレるような制服を…いや、いいんだけどね別に。

あとトランプを狙った勢力と安倍氏を撃った勢力は同じとかなんとか…いや、いい(略)

そんなこんなで高田氏の講演に続いて複数がスピーチしたが、前回のイベントにも来ていた小林節氏がマイクを持った。これが酷かった。ていうか、またかよオイ。

小林氏は「山上の裁判に入れなかったのは有罪が立証できないから」と話し、高田氏の話を信じているようで「一人でやったなんて立証できないじゃないですか。怪しいぜ、それって。だから僕はとても(裁判を)楽しみにしているんですけどね」と不遜に語った。

何度でも言おう。この人は慶大名誉教授である。あーあ、もう…。

憲法学者として注視しているらしい旧統一教会の解散命令にも言及し「確かに司法も腐っています」と憤りを露わにした。

「彼が学生の時から知っている」という統一教会代理人の福本弁護士に連絡をとって解散決定書を読ませてもらい「高裁に意見書を提出した」と明かし、「英訳して国連にも届けようと本気で思っています」。これには会場からは大きな拍手が上がった。

(またしてもスピーチした小林節氏)

(またしてもスピーチした小林節氏)

話を山上被告に戻すと、小林氏はもうどうにも止まらない。

「山上がどうなるか、一番いいのは自白調書を残して、なんか死んででもくれたら一番楽ですよね当局としては。彼が生きていて、マインドコントロールが覚めて、まともな弁護士がまともな活動をすれば、少なくとも有罪は立証できない。真犯人は誰かって(なるから)。高田先生が証明しているじゃないですか」と断言した。

高田氏とは今回が初対面とのことで、小林氏は「一度会ってみたかった。噂で聞いていて、おもしれえと思って。頭はスッキリしましたけど、エンターテインメントとしても面白かった」と話し、会場の拍手を浴びた。

黒猫の雑感、この集団を形成するのは…

一連の「安倍元首相の暗殺の真相を探る」集会は、小林氏のような著名学者、言論人、議員らを巻き込み、「陰謀論懇談会」の様相を呈している。

そして前述の通り、このイベントは旧統一教会信者のたまり場である。

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