【書評】子を思うあまりに沼へ…「ママ友は『自然』の人」

今夏、大注目のマンガのレビューです
黒猫ドラネコ 2025.08.07
誰でも
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今回は「ママ友は『自然』の人」(7月10日発売、竹書房)をご紹介。当レター書評シリーズ初のマンガである。

原作者の山田ノジルさんとは早いもので8年の親交がある。食の趣味だけ個人的に苦手なのが申し訳ないけれど、すごく尊敬するライターの先輩だ。

Xアカウント⇒ @YamadaNojiru

スピ・ビジネスなどを批判する発信を始めて、意を決して最初にノジルさんに会いに行っていなければ、私は今のような物書きの活動をしていなかったと思う。

(トークイベントにて、山田ノジルさんと黒猫)

(トークイベントにて、山田ノジルさんと黒猫)

「呪われ女子に、なっていませんか? 本当は恐ろしい子宮系スピリチュアル」(2018年、ベストセラーズ)などの著書があり、子育て世代がハマる色んな「沼」の観察者として、満を持してマンガ原作デビューを果たしたノジルさん。

その真骨頂とも言えるネタが随所に散りばめられた一冊に触れていこう。

我が子のため

「それは子どもを守るために選んだもの――だったはずなのに」

主人公の歩美は義実家で過ごしながら、賑やかな家庭の中で疎外感も感じつつ、子育てをしていた。

その孤独に入り込んでくるのがやっぱり自然派トンデモである。こういう時はいつも自分の状況を打破したいと、自ら何かを探しに行ってしまうからタチが悪い。

悩める者を惑わせる誘いは、この社会にあふれているのに。

ママ友ほしさに入ったサークルで繰り出される、あまりにも偏った情報の数々。無添加、牛乳・白砂糖忌避、母乳信仰、アロマ、布ナプキン・布おむつ、宇宙育児(!?)などなど…。

現実社会でも誰の眼前にも現れる、「沼」への入り方がリアルに描かれている。

何事も行き過ぎなければいいのかもしれないが、それらが「良いもの」と思い込んでしまった人は、ほどほどでは止まれない。

歩美たちのように我が子を思う動機があるなら尚更、冷静な判断は難しくなる。

(こうなりがち)

(こうなりがち)

自分が信じたもの以外を「悪いもの」と勝手に認定し、性格が変わるのは時間の問題だ。なにもスピリチュアルや過度な自然派だけに限った話ではない。

私もこれまで、たくさんの人から相談を受けてきた。友人や親族が「何やらおかしくなってしまった」と。かくいう私も、相談者の方々と同じような体験をした一人だった。

どう注意喚起しようとハマってしまう人は一定数いるのだが、「仕方ないこと」と言ってばかりもいられない。不幸になる人を減らすためにも、ハマりがちな状況と、どんなものがあってどう危ないかを事前に知っておくことは必要だ。

そういうわけで、この「ママ友は『自然』の人」はむちゃくちゃ売れて、ぜひNHK・BSプレミアムあたりでドラマ化してほしい。本気で。

作品の構成は、テレビドラマのシナリオにも十分に足り得ると思う。

カルト化して炎上…?

ネットで知り合って群れ、事実や科学的根拠よりも新鮮さや心地よさだけを求めた先にあるのはカルト化だ。宿命のようなものである。

身内のノリに溺れ、社会と乖離していることが分からないとどうなるか。本作の終盤にかけて起こる「炎上」の顛末はSNS社会ならでは。凄惨で強烈な「あるある」が展開される。

ネット炎上論はさておき、馬鹿にし続けるのがよくないのも分かるが、単純にヤバいことをやって自ら公表してしまっていたら、意図しないところで面白おかしく取り上げられるのは必然。それを狙う人は必ずいる。なんだか自分で書いておいてクシャミが出そうだ。

そういえば、この作品内でも、炎上に際して現れた隠れキャラ(?)はどこかで見覚えがあるなあ…。

きっと仮面の下は竹野内豊に似ているに違いない。

(こ、これは…?)

(こ、これは…?)

様々なスピ系や陰謀論などの集合体を見てきた私には、今日もどこかでこんなトラブルが起きているはずと思えて仕方なかった。

それは原作者のノジルさんもずっと見て来た、あるいは容易に予測できる展開。なんなら常にそうであって欲しいとさえ思うトンデモ集団の末路だろう。かわいそうではあるが仕方ない。

打ちのめされた彼女たちは、日常に戻ることができるのだろうか。主人公とママ友たちの行く末は、「どこかで見かけるパターン」としてそれぞれ描かれている。

衝撃のラストシーン

選ぶには渋い場面かもしれないが、終盤、子どもの食後に「〇〇ドリンク(マジで嫌)」を飲ませる数コマがある。

登場人物の回顧の構図とともに、子の涙の重なりがあって、グッと引き込まれるものがあった。

すじえさんの作画は、切迫感のあるシーンでの表現力が特に素晴らしい。感情移入で一旦はダメージを食らっても、シンプルで可愛らしい絵柄なので次へ次へと進めることができる。漫画には絶対に必要な要素だろう。

そうして迎えたラストの一コマは衝撃だった。

前述「それぞれのパターン」の解説がある最終話「その後の3人、そして2人」では、「2人…?」と不思議に思いながら読み進め、大ゴマで「そう来たか…」という終わり方。

ノジルさん…アンタ、なんちゅうことしてくれたんや…。

個人的には嫌いな展開ではない(むしろ好きだ)からニヤニヤしたが、ホラー映画じゃないんだから、ちょっとは「救い」を残さんかいと思ったりもして……。

こればっかりは読んでもらうしかない。ぜひ賛否の声や感想を聞かせてほしい。

ただ言えるのは、歴史が積み重なっていくように、子育てにおけるトンデモも必ず未来へと繋がってしまうということか。そこにハッピーエンドはそぐわないのかもしれない。

ハッピーなのはいつも、周りが見えなくなった親の頭の中だけで。

(黒猫ドラネコ)

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原作者・山田ノジルさんは9月に「育児の呪い脱出トーク」を開催予定。今回の一冊とともに、興味が沸いた方はライブ動画配信もぜひチェックしてください。

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