「WHO脱退だ!」デモ行進。反ワクチン勢に”宇宙セクト”が接近…?

11月26日、新宿でのデモを取材しました。
黒猫ドラネコ 2023.12.01
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黄色い集団

 夕刻に差し掛かった新宿アルタ前。

 大型ビジョンには、ジャパンカップの熱戦が映されていた。歴史的名馬との呼び声も高いイクイノックスが府中のターフを鮮やかに切り裂き、鞍上のルメールが快哉を叫んだ11月26日。悲喜こもごもの競馬ファンに交じって、黄色い鉢巻きをした異様な40人程が集合していた。

 「WHOから脱退」

 そう掲げられた黄色のぼりが10本と、横断幕、思い思いのプラカードなど。よく観察すると、星型のシンボルのネックレスをつけているメンバーもいる。

(新宿アルタ前に集った黄色集団)

(新宿アルタ前に集った黄色集団)

(過激なプラカード)

(過激なプラカード)

 

 こちらは日本ラエリアン・ムーブメント主催「パンデミック条約反対、WHO脱退デモ行進」を目的として集まった方々である。

 どうやら反ワクチンの思想が高じて、「WHOが我々を支配しようとしている!」となっているご様子。ちなみに参政党あたりも「日本の主権が奪われるんですよ」とか何とか言って、同じようにWHOに反発している。

 つまり普通の人は特に何も騒がなくていいということである。

 まずラエリアン・ムーブメントとは何ぞや、という方へ。

 今回のデモをなぜかパンダの被り物で熱心に取材していた、やや日刊カルト新聞の藤倉記者の記事が分かりやすい。

 そして、歴史的インチキ予言者・天瀬ひみか観察の第一人者であるじゅりーさんの記事も。以前も何かで紹介したと思う。

 要するに宇宙人のメッセージを伝えるフリーセックスとかの集団。くしくも、イクイノックスのルメール騎手の母国であるフランス発のトンデモ団体だ。

 当然、カルト団体に厳しい仏国内でもしっかり「セクト」に分類され、注視すべきグループになっている。

 識者によると、世界的に見ても日本国内には信者が多いようだが宗教扱いではないそうだ。また、フリーセックスもこのご時世ではあまり推進しないようになったのではとのことだった。

 さて、そんなラエリアンが名を掲げてデモ行進をするのは久しぶりとのこと。

 なぜか今回ここに、反ワクのラッパー集団「韻暴論者」のMekPiisua(メックピースア)が参戦している。わざわざ色を合わせたのか偶然なのか、ド派手な真っ黄のダウンジャケットに金髪とサングラスでかなり目立っていた。「韻暴論者」メンバーではないラッパー仲間らしきやや強面の方々を引き連れ、そのうち誰かの彼女さんらしき女性もいる。

 親切にも藤倉記者がメックに近付き、「気を付けないとラエリアンのマークが動画に映るとBANされますよ」と伝えたようだった。

 「!?」と、グラサン越しとはいえやや驚きの表情があったメック。何も知らなかったのだろうか。

 このデモには「日本と子どもの未来を考える会(通称ニコミ会)」などの別の反ワクチン団体からおじ様やおば様たちも集まっていて、いろんな反ワク集会でよく見る顔もちらほらあった。

 「ラエリアン4:反ワク中高年5:ラッパー1」ぐらいの度数強めのカクテルが仕上がっている。カオスだ。いや、こういうのがいいんだよこういうのが。

 カオスといえば、この日の昼にも同じ新宿で反ワク陰謀論集団の神真都Q残党もデモをやっていたそうだ。

 とりあえず私も予定はちゃんと把握していて、集合時間に間に合うよう「さて行くか」と起きたものの、なんかちょっと面倒くさくなり「まあ午後からラエリアンのデモもあるし、今日はいいか」と思って行かなかった。ごめんな、光の戦士たち。

 「(WHO脱退の)のぼりが邪魔だよ」

 アルタの大型ビジョンが見えず、ややイライラ気味のおじさん競馬ファンからクレームを受け、ちょっぴり申し訳なさそうにしているラエル+反ワクたち。

 警察から「邪魔になるから移動してください」と促され、素直に従っていた。競馬ファンは続けざまに「あれも何とかしてよ」と強く抗議する。

 視線の先には、なぜか単独行動でマイクを使って訳の分からない演説を繰り広げている反ワク活動家の塚口洋佑の姿があった。

(アルタ前で単身演説する塚口)

(アルタ前で単身演説する塚口)

 「…あれは違う(グループ)みたいだから」と、なぜか警察も諦め気味である。

 競馬ファンも「え、あれ違うの?さっきからうるせえんだけど」と困惑を隠せない。

 集まったトンデモウォッチャー勢も「あれ塚口じゃん…」と認知はするものの、なぜ単独行動しているのかさっぱり分からず、みんな「???」となっている。

 誰にも分からないことがこの界隈ではよく起こるのだ。

狂ったリズムが新宿を巡る

 予定時間を少し過ぎ、警官に先導されて集合場所から車道へと進んでいく黄巾賊…もといラエル+ラッパー軍団

 先頭にはメックとお仲間(と誰かの彼女)。ボンボンボンと重低音のBGMを鳴り響かせた街宣車の軽トラが合流し、いよいよ無限の宇宙(かなた)へ出発だ。

 新宿大ガード下付近から歌舞伎町方面に向かい、「WHOから脱退だ」デモ行進がついに始まった。あーあ。

(街宣車とラッパーを先頭にデモ隊が出発)

(街宣車とラッパーを先頭にデモ隊が出発)

(パンダ藤倉記者の撮影にサービス精神なのか睨みをきかせるメック)

(パンダ藤倉記者の撮影にサービス精神なのか睨みをきかせるメック)

 金属製の打楽器を操るおじ様が、コンチキチンと軽快に音のアクセントを作り出している。ラッパーの新曲なのか「狂ったリズムのど真ん中♪」とのリリックが響き渡った。

 そこに、主催者に近いらしい真っ赤な服のおば様がかなり目立つ。

 拡声器から「脱退だ!脱退だ!脱退脱退脱退だ!」としつこく声を上げている。まさに「狂ったリズムのど真ん中」。もはや他に例えようはない。

 というか、まず音響がデカすぎて「狂ったリズムのど真ん中」の歌詞と「脱退脱退脱退脱退」以外はほぼ何も聞こえない。

 先頭のラッパー達はノリノリだが、デモ隊として後に続く人員が高齢すぎてなのか、ほぼ何も主張できていない。ちょっと残念である。

 一人で叫びまくる「脱退だ」のおば様があまりにも「脱退脱退脱退脱退」(わっしょいわっしょいわっしょいわっしょいみたいな感じ)を繰り返すので、追いかけるウォッチャー勢が畏怖の念と敬意を表し「脱退ネキ」と勝手に名付けた。

(拡声器を手に大活躍の「脱退ネキ」)

(拡声器を手に大活躍の「脱退ネキ」)

 「脱退脱退脱退だ!脱退脱退脱退脱退!」と、なんだかちょっぴり変化もつけながら音の暴力で新宿を侵していく中、沿道にはチラシ配り部隊が2、3人ほど出撃していた。

 ハットをかぶった50代ぐらいの背の高いおじさんが特に頑張っている。息を切らしながら「とんでもないことが起きようとしています!」とか喚いては走り回り、歌舞伎町付近の若者たちにチラシを渡していく。

 「日本がなくなるかもしれないんです!すぐ検索してください!ネットで調べてください!」(走り去る)

 反ワクおじさんさあ……。

 思わずチラシを受け取った部活帰りらしき若者たち数人が、「おい、もらうなよw」「ウケるww」「とんでもないことがwww」とじゃれ合って爆笑している。若いって最高だなと思う。

 ほぼ怖がって受け取らない人ばかりだったが、外国人観光客らしき方々は比較的デモ自体に理解があるためか、チラシに興味を示したり、デモ隊に向かってサムズアップしたりして好意的だった。

(熱心にチラシ配りをしていた反ワクチンおじさん)

(熱心にチラシ配りをしていた反ワクチンおじさん)

 新宿東口からスタートしたデモ隊は、狂ったリズムと「脱退脱退脱退」の強い勢力を保ったまま、靖国通りを四谷方向へと抜ける。右折を繰り返し、再び新宿駅の方面へと進んだ。

 トンデモ団体の行進ルートに詳しいウォッチャーK氏によると「この道を歩いたのは自分が知る限り二例目。警察はよく許可を出したな」。どうやら非常に珍しいルートだったらしい。いや、だからなんなんだと言われても。

 甲州街道の陸橋を上ると広い新宿南口。

 禁止されているようだが、恒例らしき路上ライブが行われていた。デモ隊は、ちょっとファンも多い様子の女性シンガーが懸命に歌う背後を悠々と通り抜けていく。

 まず先頭のラッパー達がシンガーとそのファンを茶化すようにポーズを決める。そしてすぐ「脱退脱退脱退だ脱退だったら脱退だ」と脱退ネキが通り過ぎる。さらに、ライブを邪魔され苦笑いする聴衆に向け、反ワクおじさんが必死の形相でチラシを配っていく。

 まさに三位一体。転ばし、斬りつけ、薬を塗るという妖怪カマイタチのごとき所業である。

(女性シンガーとファンを煽るラッパー、脱退ネキも迫る)

(女性シンガーとファンを煽るラッパー、脱退ネキも迫る)

 およそ1時間ほど経ち、新宿南口前を通り抜けるとデモも終盤。

 いつの間にか「脱退脱退…脱退しようね脱退しようね」と脱退ネキもバリエーションを増やしている。せっかくの日曜の午後、こんなことに気付く心の余裕は別に欲しくはなかった。

 ふと、デモ隊の向かいの通りから聞き覚えのある声がする。

 「あの立憲のH議員なんて共産党のスパイなんですよ!」みたいなことを喚いている。ルミネ前に演説場所を移した塚口洋佑だ。またお前かい。

 デモ隊を意識したのかしないのか。東口からわざわざ移動してきたようだ。通行人のおじ様たちから「どうせうるさいんだから一緒に行進すればいいのに…」と聞こえてくる。全く同感だ。

 しかし、そこはメジャーリーガーのダルビッシュ投手にネット上で野球の助言をした男。孤高の一匹狼スタイルがいいのかもしれない。

 そんな塚口の懸命の演説は、ラップ音源と脱退ネキの圧倒的な声量の前に、無情にもかき消されていく。

 夜のとばりが降りた眠らない街・新宿で、数少ない「目覚めた者」が交わらないのは何の皮肉だろう。

 次は塚口も誘ってやれよな。

(日が落ちても進むデモ隊)

(日が落ちても進むデモ隊)

終着地で発覚した事実

 終着点は、大通りから路地裏に入って、公衆トイレしかないような小さな公園だった。

 「お疲れ様でしたー」と中高年たちがのぼりを降ろし、ひと息ついて満足げに語り合っている。どんなデモ行進でもフィナーレの様子は同じだ。「目覚めた中高年たち」が週末のウォーキング後の充実感を漂わせる。

 職務を終えて集会を遠巻きに目守る警察の皆様。本当にいつもご苦労様です。

 そして追いかけたウォッチャー勢も、毎度のことながらトンデモ具合の採点に忙しい。今回は「WHOから脱退ネキ」というSSS級の新キャラ登場に大満足。今年一番といってもいい高評価のトンデモ行進だったようだ。みんな「脱退脱退脱退脱退」とリズムの余韻に浸っている。

 いや笑っている場合ではなかった。人間は1時間以上も一定のリズムで同じフレーズを聞き続けてしまうと、脳内をハックされてしまうことをこの時の私はまだ知らない。

 一人で眠る夜がこんなに怖いなんて。

 脱退脱退脱退脱退脱退脱…ぐっ…ああああ…!

 まあ、それはいいとして(いいんかい)最終的にデモ隊は途中参加も含めて50人ほどになっていた。

 チラシ配りをしていた反ワクおじさんが、まるで「自分の手柄」であるかのように、フランス人だという長身の紳士的な中年男性をデモ隊へと引き入れていた。「おお…ありがとう」と笑顔が広がり、数人で小さな国際交流の輪ができる。

 ただその紳士は、ラエリアンの本場出身でもあるためか、受け取ったチラシにある主催者をやはり気にしていた。「日本に何人ぐらいいるのですか?」「沖縄にもラエリアンはいますか?」などと片言の日本語で一生懸命に尋ねている。

 ここでとんでもないことが発覚した。

 思いがけず外国人さんが参加してくれて喜んでいたはずのおば様たちの表情が曇りはじめている。そして、とうとう衝撃の逆質問をした。

 「あの…ラエリアンって何ですか?

 な、なん…だと…?

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