ゆるキャラ炎上。「おぶせくりちゃん」が反ワクチンの汚名を被るまで
どうも、黒猫ドラネコです。
とある「願掛け」で大好きなコーヒーを飲むのを止めています。
さて今回のレターは、このコロナ禍で起こった悲劇をまとめておきます。
「おぶせくりちゃん」の騒動です。
どうぞー
(いつも通り大半を無料公開していますが、私の取材や執筆活動をサポートしていただける方はぜひ「登録する」ボタンから有料登録をしていただければ幸いです。これまでの全ての有料記事を読むことができ、今後もいち早く全ての記事が届きます。)
************
燃える栗
小布施町は長野県で最も面積の小さな自治体だ。
葛飾北斎が晩年を過ごしたことでも知られ、北信濃地域有数の観光地として成功した町。
そんな穏やかな地の自慢でもあったイメージキャラクターが「やらかした」のは、コロナ禍の鬱屈が世を覆っていた2020年の暮れのこと。
名産である栗をモチーフにした「おぶせくりちゃん」のツイッターアカウントが、反ワクチン思想や陰謀論に影響されたような、いわゆる「目覚めた」ツイートを連発しているのが観測されたのである。
「過度な自粛は必要ないクリ~」「ただの風邪だったらしいクリ~」「もう茶番はやめにしようクリ~」「検査すればするほど広がるクリ~」
なんとあの陰謀論インフルエンサー「目覚めてる庶民」(現・自分の頭で考える人2・0)までも引用し、「庶民さんのツイート大好きクリ~」などと言っていたのだから救えない。
当時は公式マークを取得していたこのアカウントのツイートに、そちら方面の方々からは好意的な声が聞かれたが、私をはじめ複数のウォッチャーが言及したところ大騒動に発展。町も対応に追われることになった。
要するに、「中の人」がネット上の不確かな情報や陰謀論者などに心酔してしまったあげく、それまで日常のゆるいツイートが評判だったおぶせくりちゃんアカウントを利用して発言していたのだ。
(小布施町HPより。おぶせくりちゃん=左、と、おぶせまろんちゃん)
小布施町のHPなどによると、おぶせくりちゃんはゴミゼロ運動の「リサイくりちゃん」から進化して2010年に誕生。全国ゆるキャラ祭りにも参加するなど、町民以外からも認知され、10年かけて人気や信用を積み上げてきたキャラクターだった。
ツイートの内容もよくなかったが、問題は、ゆるキャラに「中の人」自身の思想を背負わせて言わせたことだろう。自治体が大切にしてきた優しく親しみやすいイメージをぶち壊す愚行である。
町長が謝罪声明を出し、ネットニュースにもなった。
→ 「ただの風邪だったらしいクリ~」 小布施町公式キャラ「おぶせくりちゃん」コロナめぐるツイートで町長謝罪(J-castニュース)
この後からおぶせくりちゃんアカウントは一切のツイートを停止。
ツイートのファンだったという方からのメッセージで、後になって知ったが、それまでも炎上まではいかなくても無配慮と思われるような投稿が目についたらしく、アカウント管理について批判はあったそうだ。
さて、そんな「覚醒したんだクリ~」の強制停止に、しかし黙っていなかったのが、みんな大好き(?)反ワクチン・陰謀論界隈の面々である。
「言論弾圧だ」「正しいことを言ったのに燃やされた」「おぶせくりちゃんを炎上から守れ」の合唱が起こり、どこぞのアホウにbot機能で「目覚めたツイート」を中心に流す「おぶせくりちゃんの名言」なるアカウントまで作られた。
よもやよもやで「反ワクチン・陰謀論界隈」の象徴と化してしまったのだ。
この影響もあってか、本物のおぶせくりちゃんはツイッター運用自体を完全停止に追いやられる。せっかく「中の人」が解任されただろうに、こうなってしまっては心機一転の再出発も難しくなったはず。
町のキャラクターとしての活動も、コロナ下の難しさを理由に休止となってしまった。
全国各地のゆるキャラが元気に飛び回り始めた昨今、未だに大手を振って動くことができていない理由は容易に想像がつく。
実は、ダークサイドに墜ちたブラックリちゃんよろしく作られた偽者「おぶせくりちゃんの名言」は現在でも稼働している。
町としては何も対応しないのだろうか……。
2月末現在で1800以上のフォロワーを抱え、一応は「おぶせくりちゃんの言葉に感動してつくりました。長野県小布施町とは一切関係ありません」とのプロフィールになっている。
そんなもん通用するわけがないのだが…。
このbotでは、過去の「あなたの大切な存在に気づこうクリ~」「笑顔のあなたが大好きクリ~」などの本当の名言に混じって、「厚生労働省はコロナワクチンと死亡との因果関係を認める気はまったくないクリ~」「2類を5類に下げないのは24時間以内に火葬ができなくなってワクチン死の隠蔽ができないからなんだってクリ~」などの激しい反ワクチン思想が唐突にぶっ放されているから実にシュールだ。
本物はこんなことまでツイートしていたか…?このbotアカウント作者があとから足したのかもしれない。(どっちにしてもアウトだが)
ほのぼのする言葉に気を許した瞬間に笑顔で刺しに来るような狂気。
誰からの反応もほとんどない今でも、かなり短いスパンで虚空に向けて邪気を放出し続けている全自動・小布施貶めマシンである。
2年を経て明らかになった事実
このコロナ禍では、ネット上でとにかく色んな騒動があって、様々なキャラクター(ゆるキャラに留まらず)が爆誕しては消えていった。
罪なもので、みんな持ち上げるのも飽きるのも早い。
浅はかな「中の人」によって日本初の「目覚めたゆるキャラ」の汚名が拡がったことも、今やほとんどの人が「そんなのいたな」とたまに思い起こす程度だったことだろう。
そんな炎上劇に続きがあるとは、いったい誰が予想しただろうか。
あれから2年以上の時を経た今年2月。
山梨県知事を脅迫したとして元・小布施町職員が逮捕されたとのニュースが流れた。ワクチン接種を推奨する県を批判した内容の書面と、カッターの刃が同封されていたという。
偶然にもこの報道をネットで目にした私は、「小布施町元職員」の文字で瞬時に「何か」を感じとり、「もしや…」と容疑者の名前で検索をした。
その予感は見事的中する。
なんと、逮捕されたのは「おぶせくりちゃん直属の上司」として活動歴がある人だったのだ。
検索でヒットしたブログやニュースサイトで、この容疑者である元職員は、やけにおぶせくりちゃんの言動やツイートを詳しく解説し、自慢げに語っていたことも確認できた。
点と点を繋ぎたがる陰謀論者さんの特徴みたいで悪いが、実社会で「目覚めた」人に遭遇する割合から考えても、職員の少ない小布施町役場にガチの人が複数いたとは考えにくい。
(小布施町HPよりスクショ)
決して断定はできない。
だが、この容疑者が「中の人」であったことはマロンペーストよりも濃厚だ。さすがに今回ばかりは「おぶせくりちゃん騒動とは無関係」とする方が不自然だろう。
この容疑者は1月にも、交通規制の案内看板に国の政策を批判する紙を貼り付けて器物損壊容疑で逮捕されている。その思想から、町内でどんな内容のポスターを貼ったかも予想がつきそうなもの。
いやはや、特に待ってもいなかったが、こんな伏線回収があるとは。これだから反ワクチン・陰謀論ウォッチはやめられない。
(以下は有料登録で全文読めます)
黒猫の雑感。コロナ禍が炙りだしたもの
だがしかし、今もおぶせくりちゃん自身には何の罪もない。
たった一人の「目覚めた人」のせいで、みんなから愛されていたキャラクターも殺されたようなもの。