正しい医療情報を発信する「Lumedia」創設。やさひふ先生に訊く(特別インタビュー)
どうも、黒猫ドラネコです。
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さて、今回は読者限定を外した完全公開の特別インタビュー記事です。
自分が興味を抱いたことや、多くの人に知ってもらいたい団体などには、こうした企画を通じて積極的に協力していきたいと考えています。
さっそく、このたび答えていただいたのはこちらの方。お医者さんです。
やさひふ先生(@S96405539)
皮膚科専門医で、旧アカウント名「やさしい皮膚科医」としてもおなじみ。ツイッター上では、誤った医療情報を流した”インフルエンサー”らを完膚なきまでに斬り続けてくれています。鋭い指摘と拡散力、相手のフォロワーの多さに関係なく戦う姿勢……、いつの間にか私の認識は「ツイッターで最も怒らせてはいかんお医者さん」になっていたのですが、今回は貴重なお時間を割いていただき、本当にやさしく丁寧にインタビューに応じてもらいました。
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「正しい医療をもっと簡単にわかりやすく」
「科学的に根拠のある、読む価値のある情報を」
「情報を通じて人の命を守る」
そんな理念を掲げるサイト「Lumedia」がこの3月にスタートした。
SNSに強い現役医師らが声をかけ合ってファクトチェックをおこない、明確な根拠のある記事を発信していくという待望のメディアだ。感染症についての真偽不明の噂やワクチンのデマ、高額の美容商品・機器、やけに賞賛されている治療法の宣伝など、油断していなくても誰もが騙されそうなものが溢れている昨今。医療や健康に関しての不確かな情報ばかりに冒されてしまったネットの”特効薬”となるか、大いに期待がかかる。
発起人であり、編集長となった「やさひふ先生」に、創設の経緯や思いを語ってもらった。
やさひふ先生が情報発信を始めた理由は
ツイッターの投稿を開始したのは20年3月です。最大の理由は、私の患者さんが悪い美容皮膚科に騙され、その相談を受けたこと。専門家がいないクリニックで嘘の説明に引っかかって美容脱毛を受けました。効かないのはもちろん、ヤケド被害に遭い、あげく相手方が返金に応じなかったのです。
「なんで世の中には悪いお医者さんがいるんでしょうか。嘘をつく医師がいるなんて、これまで知りませんでした」と吐露され、正しい情報発信をおこなって被害者を減らす取り組みが必要だと考えました。
それまでも「脱ステロイド」や「血液クレンジング」などのエセ医学を多く目にしていましたが、自分の患者さんが大金を奪われて悲しい思いをしたのはかなり辛かったです。自分にできることを何か始めようと考えました。
あとは、コロナ禍に入って21年度前半に予定されていた数々の学会が延期、もしくは中止になり、少しだけ時間的余裕ができたということも関係しています。
これまでも“インフルエンサー”の発信の誤りを指摘し、注意喚起してきた。最も印象的だったのは
DaiGo 氏の件(健康系デマの発信)ですね。論文解説を売りにしていたようですが、実際には解説内容と論文の内容が一致しないことが多く、紹介している論文の質自体に問題があるケースも目立ちました。美容関係でも不適切な情報発信が多くて健康被害のリスクが高いので、注意喚起をおこないました。
たとえば「アンチエイジング系塗り薬」に関する論文は、そのうち97パーセントで不適切な解析が行われています。(※参考文献)
非専門家は、この97パーセントの論文に問題があることに気付けません。そんな発信を信じても、適切なレベルで学べる可能性はほぼ無いのです。このことを皆さんに知っておいていただきたいですね。
(※)Motosko CC, Ault AK, Kimberly LL, Zakhem GA, Gothard MD, Ho RS, Hazen A. Analysis of spin in the reporting of studies of topical treatments of photoaged skin. J Am Acad Dermatol. 2019 Feb;80(2):516-522.e12. doi: 10.1016/j.jaad.2018.04.034. Epub 2018 Apr 22. PMID: 29689326. https://jaad.org/article/S0190-9622(18)30633-9/fulltex
Lumediaを立ち上げたきっかけは
Twitterで情報収集する中で、スキンケアや美容以外の領域でも不適切な情報発信が多いことに気付きました。根拠のない健康情報は無限に湧いてくるので、個別に指摘するだけでは根本的な解決は難しいとも感じ、国民全体のヘルス・リテラシーを向上させる必要があると考えるようになりました。
同じような考えを持つ先生方と交流し、「根拠ある正確な情報発信のみをおこなうグループを立ち上げたいのですが、参加してくれる方はいますか?」と呼びかけたところ、思ったよりも反響がありました。
ライターとして立候補された先生方や、ご推薦いただいた方々と相談して、Google検索や、SNS上で不適切な医療情報ばかり目立つ現状を変える必要があるということで意見が一致し、信頼できる医療情報を届ける査読制メディアを作ろうと Lumedia を立ち上げることになりました。
日本における腫瘍内科の第一人者、勝俣範之先生が顧問に
世界レベルの医師に入ってほしかったので、勝俣先生には早めに相談を持ちかけました。世界的医学雑誌に論文が掲載されるなど、ずば抜けた業績を持つ方で、Twitterで一般向けに啓蒙活動をされているのは驚くべきことです。大リーガーが少年野球の指導をしてくださっているというイメージでしょうか。国民のヘルス・リテラシー向上という理念に強くご賛同いただき、顧問就任を快諾いただきました。
査読システムの構築などを相談しており、また私自身に問題があった際の解任権限をお渡ししています。
学生スタッフも起用した
安定して記事作成を進めるのは多忙な医師のみでは難しいと考え、Twitter 上で手伝ってくれる医学生・薬学生を募りました。応募が殺到して全員を採用することはできず、その点は申し訳なかったです。
彼らには試しに記事の編集作業をしてもらいました。学年のバランスなどを考慮しつつ、合計12名を採用。記事作成の補助や、サイト構築などをお願いしています。
やさひふ先生からLumediaに参加している先生方の簡単な紹介を
勝俣先生(@Katsumata_Nori)
私が紹介するのも恐れ多いですが、圧倒的業績を誇る世界的名医なので、団体全体に睨みをきかせていただきたいです。がんに関する情報発信を期待されている読者も多いと思うので、勝俣先生の記事も順次公開する予定です。
また、Lumedia のライターや学生向けに、定期的に「論文の読み方」等に関する講習会を開いてもらう計画を立てています。(意外かもしれませんが、論文を読むのは特殊技能であり、ほとんどの医師は論文を適切に読めません)
sekkai先生(@sekkai)
感染症や泌尿器科に強いので、それらの記事作成をお願いしています。コロナ禍で感染症に関する情報の需要は高まっていると思います。
バク先生(@DrYumekuiBaku)
精神科に関する記事作成をお願いしています。本の出版経験がお有りなので、ライティング能力がかなり高い先生です。
筋肉博士先生(@muscle_penguin_)
運動療法に関する記事作成をお願いしています。YouTube 出演などに慣れているので、将来的に動画メディアに進出する際には中心メンバーとしての活躍を期待しています。
ドクターK先生(@doctorK1991)
眼科に関する記事作成をお願いしています。サイト運営にも長けていらっしゃるので SEO などで色々アドバイスいただいています。
以上の先生方が初期メンバーであり、日頃の情報発信の正確性などを重視して参加してもらいました。3月26日現在、医師は合計12名に増えています。最初の記事を執筆していただいたタイミングで順次公開する予定です。
(バナーの可愛らしいイラストでも登場する初期メンバーの先生方)
先生方も多忙では。どのように時間を作って携わっているのか
私の場合は寝食を削っています。本業だけでも週100~120時間程度は働いているのでかなり厳しいのが正直なところですが、可能な限り移動中の時間で査読作業などを進めるようにしています。
悲しむ患者さんを一人でも減らすために、粉骨砕身頑張りたいです。学生さんのヘルプには心から感謝しています。Twitterでフォロワー様から頂くリプライなどはあまり見る時間がなく、本当に申し訳ないです。
サイトを作って記事を掲載してみて苦労していることは
記事のわかりやすさと正確さのバランスを取るのが大変ですね。
正直、今の記事はまだまだ難しすぎると感じており、今後改善していきたいです。とはいえ正確に書くと、ある程度は難しくて曖昧な表現が増えてしまうのも事実で…。その一方、エセ医学側は根拠なしに明瞭な記載ができるので、そこは信頼できるメディアを目指すからこその課題と感じております。
記事のファクトチェックなどをどのように進めているか
規定として、各ライターには「根拠ある記載と私見部分とは明確に分ける」「根拠となる出典は必ず明示する」「出典は可能な限りガイドラインなど客観性が高いものを多めに用いる」ことを要望しています。これにより、ファクトチェックをしやすくしています。
そのうえで、私を含めた医師が査読し、「出典とされている論文の質に問題がないか」「論文の内容を拡大解釈していないか」などをチェックしてから記事公開としています。
現状ではすべての記事を最終的に私が確認していますが、平均して1記事あたり数十ヶ所は指摘して直してもらっています。因果関係と相関関係の違いなどについては、かなり慎重に書くようにしています。
クラウドファンディングで資金調達。当初の予測や今の反響については
医師は現時点で手弁当なのですが、せめて学生には人件費を支払う必要があります。そのためにクラファンを立ち上げて現在に至ります。
どれほどの反響があるかの予測は難しかったのですが、学生の人件費、サーバーやアプリなどの使用に必要な金額を踏まえ、まずは1、2年程度の運転資金を確保するために 1st から 3rd goal を設定しました。
スタートから1週間程度で 1st goal (800万円)を達成できたことは、この場を借りて篤く御礼申し上げます。
支援者の人数が非常に多いことにも驚いています。同時期にクラファンを開催している有名スポーツ団体よりも多いので、それだけ期待されているのだなと身が引き締まる思いです。
(クラウドファンディングは4月中旬まで。支援者は間もなく千人を突破する)
反ワクチン活動などが深刻化。デマを見分けづらくなっていることも多々あるが、どう立ち向かう必要があるか
まず「デマを流すほうが儲かってしまう」というのが大きな問題だと思っています。「デマを流してでも儲けたい」という悪い人は、絶対にいなくならないでしょう。
したがって、「デマに引っかかってしまう方を減らす」ことが大事かなと。騙される人数が減ればビジネスとしては成立しなくなりますので。
そういう意味では、Lumedia の記事で「信頼できる健康情報とはこのような根拠によって得られるんだ」と学んでいただき、多くの方のヘルス・リテラシーを高めることが反ワクチン活動を抑制する近道にもなるのではないでしょうか。「データのただしい見方」を理解できる方が一人でも増えるためのお手伝いをさせていただきたいです。
Lumediaの今後の展望をぜひ
先程の回答ともかぶるのですが、「読者のヘルス・リテラシーを高めて不適切な情報に惑わされることを減らす」のが Lumedia の使命です。また、「適切な情報発信を行う医療人を増やす」ことも使命と考えており、医学生・薬学生を多く採用したのは、その思いを継いでくれる方を増やすためでもあります。
デマがなくなることは無いので、それに対抗して人々を幸せにするためのプラットフォームとして100年続くような組織にならないといけません。私はたまたま初代になりましたが、次代の編集長へ引き継ぐために Lumedia を預かったという思いです。
徐々に記事数を増やしたり、TikTok や YouTube などにも進出したりする大きな組織にしますので、応援を宜しくお願い申し上げます。
(印象的なロゴ。医療の象徴アスクレピオスの杖を模した灯台が地を照らす様子を表現した)
(2022年3月末。ウェブ回答形式などのやりとりから構成、調整しました)
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インタビューを申し入れて快諾していただいた時、そして回答を受け取った際には、思わずこちらまで熱くなりました。
いつか黒猫ドラネコが何かの間違いで「インフルエンサー様のお通りじゃあ」と調子に乗ってワケのわからん「若返りサプリ」「デリケートゾーン用の美容クリーム」とかを売り始めた際には、他の誰でもなく、やさひふ先生に鮮やかにぶった切られて果てたいとまで思います。
ご多忙の中、こちらの要望に細かに応えていただき感謝しかありません。サイト運営の成功と、それによる医療デマやニセ医学の縮小を願って、いつまでも応援します。
参加している先生方や、この動きに反応した医学生たちも頼もしいですよね。
Lumediaから始まり、医療デマやトンデモに対抗する動きが今後のSNS上でさらに大きく広がっていくことを願ってやみません。
読者の皆様もぜひご注目ください。
<黒猫ドラネコ @kurodoraneko15>
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