参政党裁判、白熱の証人尋問。元職員女性を「口封じ」訴訟?【傍聴記】
参政党が元職員の一般女性に損害賠償を求めた裁判は10月17日、東京地裁で開かれ、2人の証人尋問をおこなって結審した。判決は来年2月13日。
この裁判について簡単に説明すると、神谷氏の秘書を務めていた20代のNさんが、参政党の内部情報を漏らしたとして300万円を請求されているもの(現在は460万円とのこと)。
被告Nさんは元党員のYouTubeチャンネルに出演し、神谷氏の元秘書Hさんが自殺した経緯などを告発した。
それにより同チャンネルが流した党内の会議の音声も、配信者に渡したと参政党から断定され、「秘密保持に関する誓約に違反と債務不履行」で訴えられた、というものだ。
週刊新潮の取材にNさんは「私はそもそも、そんな録音は持っていませんし、誰かに渡してもいません。会議には何人も出席していたのに、なぜ私だけがデータ流出の犯人に仕立てあげられたのか疑問です。私に対して、口封じの意図があるのではないでしょうか」と述べている。
裁判当日は、元党員らの呼びかけもあり70人近くが傍聴券を求めて列をつくった。ご存知の通り傍聴運の悪い私だが、なんとか今回は倍率およそ2倍の38席に滑り込むことができた。
他より厳重な警備がされるという429号法廷へ。亡くなった方が関係する訴訟のためだろうか。貴重品以外の手荷物は預け、一人ひとりの金属探知機による検査もあった。
元ゴレンジャー赤尾氏の尋問
被告側の席では、元参政党「ゴレンジャー」の一人だった赤尾由美氏がハンカチを膝上で握りしめて静かに座っていた。
傍聴席は、元党員ら中高年が目立つ。友人関係や顔見知りも多かったようで赤尾氏と笑顔をかわす人もいた。見たところ、参政党支持者らしき人はいなかったと思う。
國分隆文裁判長らが入って13時30分に開廷。傍聴が初めての方も多いようで起立が遅れていた。
証人尋問にあたっての諸注意や個人情報を記したカードの確認がされ、証言台に向かった赤尾氏から「嘘偽りなく証言する」との宣誓書が読み上げられた。緊張する様子はなく、ハキハキとした大きな声だった。
まずは被告側弁護士による尋問だ。
ボードメンバーとは何かと問われた赤尾氏は「民間企業でいう取締役のようなもの」と答えた。参政党との関係は「16年頃に友人を介して神谷さんと知り合い、2022年の参院選にあたって全国比例候補者になり共同代表になりました。国政政党になって…」
続けて、声のトーンが上がった。
「23年に猜疑心の強い神谷さんに粛清されて今に至ります」
…さあ、ついに始まった。政治資金パーティーで娘さんとのバレエまで披露した元幹部による、党と現代表の神谷宗幣氏への嫌悪感は随所に表れた。
亡くなった元秘書Hさんとは「支部が同じで親しく、娘同士も仲が良く、よくランチに行く仲だった」という赤尾氏。
Hさんから届いたメッセージが証拠として示された。亡くなる前に本人に会った時の様子を問われると「自己嫌悪で鬱的でした。メッセージの通り、サイコパスで勘違い野郎でゲス野郎に協力したことを悔いていました」。
この証言は、神谷氏のパワハラ的言動で秘書が亡くなったとする週刊誌報道とも一致するものだ。
23年に党内で起きたゴタゴタもここで明かされた。
神谷氏に対して赤尾氏は「政治団体は独裁でもよかったけど、国政政党になったのだから上場企業のようにしなればいけないのではと具申した」
同年6月にゴレンジャー(神谷、赤尾、松田学、吉野敏明、武田邦彦)による話し合いがおこなわれ「民主的な運営をしてと4人からお願いをしたら、神谷さんは『ゴレンジャーがボードメンバーになりましょう』と言った」。しかし、その2時間後に党関係者から「『無かったことにして』と電話があって不信感があった」
8月には松田代表を更迭(発表は辞任)、複数のアドバイザーらも解任、赤尾氏にも(衆院選の?)公認取り消しの通達があったとのこと。その流れで多くの党員がやめていったという。
当の神谷氏は今夏のタウンミーティングで、おそらくこの一連の23年後半の騒動を指し「乗っ取り工作があった」などと振り返っている。
武田氏の日本保守党との交流なども含んでいるのだろうが、どちらの言い分が正しいのかは分からない。
赤尾氏は述べた。
「当時の参政党は密告と粛清が文化になっていた。粛清され、たくさんの人が辞めさせられた」
「職員も長時間労働で重苦しく、職場環境はよくなかった。スタッフの入れ替わりも激しかった」
離反した党員らは、SNSなどで参政党の実態を語るような活動をすることも多かったが、被告Nさんと赤尾氏は「見たくない、もう関わりたくないという気持ちだった」そうだ。
争点の録音流出については、「盗聴が文化なのかなと思った。神谷さんの言うことがコロコロ変わるので、職員も自分の身を守るために録音していた」
これに関連し、被告が録音を流したと断定されていることについて、赤尾氏は怒りさえ感じさせて否定した。
「神谷さんに恨みを持つ人は北海道から沖縄までたっくさんいます」
「会議室では皆さんがノートパソコンを持っていて何かを打っていた」
つまり録音する動機は誰でもあり、被告だけが音声データを持っていたわけではないとの説明だ。
出廷していない被告Nさんの人柄について聞かれると、赤尾氏は初めて声を震わせた。
「長時間労働を厭わず、誠実で古風で今どき珍しい女の子。親しかったけど批判の言葉を聞いたことは一切はありません」
赤尾氏が証言に立つ決意をしたのは「関わりたくないと思っていたけど、国政政党が民間人の女性を訴えていることが許せなくて」と、ここでも涙を堪えた。
間をあけず、原告(参政党)側の男性弁護士からの尋問だ。
個人情報に関わる部分などの詳細は省くが、当然ながら少し意地悪にも感じる問いが続く。赤尾氏と被告と動画配信者との関係性などを明らかにしようとする意図が見えた。
被告Nさんが情報を流出させたのではないかという問いに、赤尾氏はまたも「Nさんだけではなく、神谷さんや参政党に恨みを持つ人はたくさんいたと認識しています」ときっぱり答えた。
尋問が原告側の女性弁護士に代わる。亡くなったHさんが出納担当で収支報告書のことなどで悩んでいたことが明かされ、「命を絶った理由だと思うか」との問い。赤尾氏は「思っていません」として「別の理由がある?」に「そうです」と答えた。
ここで一旦、事前情報と合わせて傍聴して把握できたことを整理しよう。
参政党はNさんを訴えたが、Nさん側は身に覚えがないと主張し、この裁判が続く中で、当該の動画を配信した元党員の配信者が、亡くなったHさんから情報提供されたとチャンネルで明かしているのだ。
なんとか被告Nさんの行為だったとの証拠を出したい、もう後には引けない参政党といったところだろうか。
動画配信者F氏の尋問
赤尾氏の尋問が終わり、入れ替わりで入ってきたのがその動画配信者で元党員の女性F氏である。
F氏は22年参院選で神奈川選挙区から出馬し12万票以上を獲得。その後は離党してアンチに転じた。日本12党(デヴィ夫人らがワンニャン平和党として立ち上げ、後に夫人の離脱で解散したものを復活させた形の党)の代表として活動し、今夏の参院選は内海聡の無所属連合に合流して出馬。以前から、諸々の反ワクチン集会などでも姿を見かけた。
ここから、F氏への原告側(参政党)の尋問はなんと「1時間」。裁判長がそう告げると、傍聴席がざわついた。
まずは被告側弁護士の尋問で、配信者F氏は録音について「(被告)Nさんからもらったものではありません」と簡潔に答えた。
「嘘偽りない証言」の宣誓もしたので、もうこれで終わりでもいいぐらいではないか。
が、しかし証人尋問のハイライトはここからだ。傍聴席が「ドッ」と沸くシーンや怒りの抗議もあり、参政党側の戦略までも見てとれる白熱したものになっていく。