【書評】子宮委員長、復活!?「子宮から爆音」「股活は基本」…。新刊『女の法則』は絶望的スピ自己啓発本

7月末に出版された元・子宮委員長の新刊を読みました…
黒猫ドラネコ 2023.08.25
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 スピリチュアルは出版のハードルが低すぎる。

 そんな思いを強くするばかりの『女の法則』(吉野さやか、河出書房新社)は、著者の生き方を知る信者のためだけの一冊といっても過言ではない。

 吉野は、数年前まで「子宮委員長はる」として(エセ・)スピリチュアルビジネスの第一線を走っていた教祖的な人物。私のフォロワーさんにはすっかりおなじみだろうが、まずは子宮委員長と「子宮系」についてざっくり説明しよう。

「子宮系」とは

 元・子宮委員長、吉野さやかは青森県出身の37歳。

 上京してソープ嬢を経てブロガーとなり、「子宮の声を聴く」などの独自のスピリチュアル自己啓発を広めて一世を風靡(?)した。

 主な活動名の変遷は子宮委員長はる→八木さや→さやりんご→吉野。

 彼女の活動が「子宮系スピリチュアル」だとして広まったのは、別の人物によって販売されていたジェムリンガ(膣に挿入するパワーストーン)を勧める役割を子宮委員長が担っていたことがまず大きな要因だろう。

google画像検索より、ジェムリンガ

google画像検索より、ジェムリンガ

 彼女に心酔する「子宮系女子」と呼ばれる層がアメブロを中心に増殖し、画期的パワーストーンよろしくジェムリンガを称賛しまくったものだから、高須クリニックの高須克弥院長ら著名な医師が注意喚起して話題になった。

 子宮委員長がセミナーなどに数百人規模を集めていた最盛期がこの頃で、週刊誌が「カリスマブロガー」「新しいタイプのスピリチュアル」のようなやや好意的な論調で社会現象のごとく取り上げたこともあった。

 ごく一部で「子宮系スピ」が伝統的な性器崇拝などと混同されがちだが、これは誤りである。子宮や女性器を大切にとの教えはあるものの、そうした信仰心や祈願メインのスピリチュアリティと、いわゆる「子宮系スピ」とでは明確に違っている。

 子宮委員長から何らかの信仰心を強く感じることはほぼない。ブログの内容などから、神話や神道にはふんわりと興味があることが分かる程度だ。

 やっていることといえば、性器崇拝を参考にしたのかどうかも定かではない、浅い独自のキラキラ理論を垂れ流して信者をブログで煽る、極めて世俗的な「スピっぽい何かによる金集め」のみ。お名前を見ただけで性器を鑑定します、みたいなバカ占いの紙「御まん託鑑定書」を数万円で売っていたりした。

 「子宮系女子、スピ」などと自称したことはないし、そういう団体があるわけでもない。(そのつどサロンや集会などのそれぞれの個別グループ活動はあるが)

 「子宮系」と名付けて呼称してきたのは、われわれ歴戦のウォッチャー勢力(誇るようなことではない)である。そこで正しく「子宮系」とカテゴライズされるのは、子宮委員長周辺から巻き起こるエセ・スピリチュアルやキラキラ自己開示の広がり、ド素人でもできる売れない、売るときゃクソ高いインチキ商売の集合体だ。

 極端な話、子宮委員長シンパなら、子宮がどうこう言っていなくても「子宮系」である。そして子宮委員長が全く登場しないのなら、たとえ子宮どうの性器こうの言っていようとそれは「子宮系」ではない。

 伝統宗教などと一緒くたにされるとウォッチャーとしては腹が立つのだ。「子宮系」を馬鹿にしないでいただきたい。いや、違うか。

新刊もやっぱり子宮

 前置きが長くなってしまった。そんな子宮委員長(もう元って付けるのメンドクセ)が、7月末に刊行した『女の法則』である。

 この新刊は、ざっくり言うと子宮委員長を5年前に引退して長崎県壱岐市(壱岐島)に移住してからどのようなマインドで生きてきたかを誇示する内容になっている。

 「女には女の叶え方がある」との荘厳なフレーズから始まり、女はどうだこうだと、自分が成功した女性の代表者であるかのようなポエチックな文章が序盤から次々と展開される。

 「自分ビジネス(子宮委員長引退後の情報商材)」をはじめとした「自分の売り方」や幸せな家庭での過ごし方を綴り、オリジナリティが股から汁のように溢れる自己啓発を、あとがきの言葉を借りれば「同じ時代に生きていく女性に届けることができたら幸せ」だそうだ。

 各章「女の法則1~5」で語られる数々の理論は頭の上に「???」と浮かぶものばかり。目次で「女の法則1、子宮の声を優先する」とあって「あーあー出たよこれ」と思いながら覚悟して進むと、その前にメインデッシュすぎる前菜の「子宮メソッド」の解説ページがあり、皆様ご存知の「女性器=神社」のあの図が(知らんて)。

 子宮委員長はるを引退して島に隠居したはずなのにここに回帰するのかと。お前の「引退」の定義はなんなんや。

(あの図。信者さん過去ブログより引用)

(あの図。信者さん過去ブログより引用)

 さて、数々のパワー迷文の中からちょっとだけ例をあげていこう。

 「子宮の声だけを溺愛レベルで聴き続けていくだけで奇跡は連続的に起こり出す。」(はじめに。8~9ページ)

 「子宮の声とは『~したい』といった欲であり、本音。『トイレに行きたい』『ご飯を食べたい』『家でゆっくりしたい』『仕事を休みたい』『飲み会に行きたくない』『眠いからもっと寝ていたい』など、これらは全部子宮の声(腹の底から湧き出る思い)です。」(子宮の声を聴けば女は繁栄する。20ページ)

 「なぜ嫁扱いされて小さくなっていたんだろうと思ったら、腹の底からドスの利いた声で『女ナメてんじゃねぇぞ』と聴こえてきました。久しぶりの子宮からの爆音の声に泣いて笑いましたが、こんなふうに腹の底から出てくる言葉を出すことが大事です。」(体内にたまった感情は下から上へ放出する。25~26ページ)

 「股活をすることで体の巡りがよくなり、それに呼応した自分の外側のエネルギーが巻き込まれたのではないかと思うのです。つまり、体の循環をよくしておくと、本人は動かなくても世界が巻き込まれてくるのです。女性が引き寄せ体質になるためには、股活は基本中の基本です。」(欲しいものを引き寄せる「おまたカイロ」。41ページ)

 全て原文ママ。まだ序章も序章だよ…本当にキリがないのでここで止める。

 いや、なんなんだこれ説明しろって私に言われても困るのよ。こっちが聞きたいんだよ。ずっと。この何年間もずっと。河出書房新社に問い合わせたらいいのかな。本当にどうかしてるのよ。ずっと。本当に。

絶望的なスピ自己啓発

 それで、もしも私の両親を何者かに人質にとられてこの本の何かを肯定しろ!と要求されたとすれば、全てめちゃくちゃ読みやすい文章で書かれているとは思う。

 無事に人質が解放されたのを確認して普通の言い方をすると、バカが、あ失敬、あまり賢くない人達がうんうん頷きながら読むものだからそりゃそうだわな、と。内容がペラッペラだ。こっちも語彙力を失ってしまうほどに。

 辞書を引くような熟語、慣用句のたぐいがほとんど出てこない。書籍用の文体ではなく、ブログの書き方のまんま。実際にブログに書いてきたようなことばかりなのだろう。(最近はあまり追えていなかったが)

 別にどこでも同じなので、気になった言葉でもなんでもないが、ペラペラめくってランダムに開いたページの文章の一部を引用してみよう。

 「くるくる巻いている渦のなかの真ん中に自分が立ち、円状にやりたいことの種をまいたポットが一個ずつおいてあって、自分の前に回っていたら水をちょこちょこあげる作業を何回も繰り返すうちに、気がついたら育っているという感じです。この方法なら、いくらでもやりたいことを増やすのは可能。」(望んだものは全て回す「トルネード作業」。134ページより)

 …小6ぐらいに思えてきたぞ。

 やりたいことを全部こなして望むようにやればいいとの理論らしい。自分がやってきたことを思い浮かべてわざわざ幼稚に抽象化しただけの話が「うまくいく法則」みたいになっちゃうんだと。これならなんでも良い方法みたいに書けるわいな。

 万事この調子で、最後まで「出版物ってこんなんでいいんだ」と、しょんぼりした老犬みたいな顔になってしまう。出版業界が築き上げた威厳みたいなものを小馬鹿にするかのごとく安っぽいスピっぽい感じをビーズの装飾みたいに振りかけた絶望的ファンブックだ。

 こうした「これでうまくいくのです」「そういうものに気付くのです」「実はそれが豊かさです」みたいなテキトーで根拠不明な自己啓発は、彼女が以前から言う「私がエビデンスだから」的なものでしかない。それを参考にするよう信者さんに終始呼び掛ける内容となっている。

 かつての子宮系スピリチュアルが猛然と復帰し、年季の入った子宮系女子が夜な夜なギャボギャボ喘ぎつつ、誰も読まない自分のブログの参考にするためだけのものであって、一般女性が読む必要性は陰部の毛穴ほどもない。

(「女の法則」河出書房新社)

(「女の法則」河出書房新社)

 何度か説明したことがある。子宮系スピリチュアルにハマるとどうなるか。

 わけのわからんものを高く売ろうとする(自分とのお茶会=面談を1時間1万円で飲食費別)などはまだ可愛いほう。

 子宮委員長が「自分を出せばお金が来る」みたいに言っているものだから、誰やねんお前なおば様が完璧で究極のアイドルヅラして半裸写真をアメブロでセルフ開示し始める。

 そして実名顔出しで性生活や性癖などを晒し、「これが私です!壱岐島行きたいからお金振り込んで!口座はこちら!」みたいに発信し始めてシンプルに社会的にお亡くなりになっていく。端的に言って地獄である。

 ごく稀に子宮から出た蜘蛛の糸を辿るかのように教祖サマの領域までよじ登って独自理論のスピ自己啓発でマネタイズに成功するツワモノもいるが、例外なく資金難に陥って信者を焚き付けるわけのわからんことをしている。

 たとえば信者から借りた金でログハウスを建てるなど。そちらについては古参ウォッチャーのマダムユキさんのブログなどを参考にされたい。

 そして「子宮系女子」についてもっと詳しく知りたい方は、2018年出版の山田ノジルさんの本をぜひ。これを読まずして子宮系は語れない。今は電子版でお得になっている。

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