【書評】禁断にして必携の書。「危険だからこそ知っておくべきカルトマーケティング」

8月26日発売の本のレビューです
黒猫ドラネコ 2024.09.05
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ぱる出版の新刊

ぱる出版の新刊

今回は「危険だからこそ知っておくべきカルトマーケティング」(8月26日発売、ぱる出版)を紹介する。

著者の雨宮純氏は、陰謀論、スピリチュアル、オカルト、それらが伴った悪徳商法などの分析に長けた気鋭のライター。その新刊は、彼の専門領域を生かした世にも珍しいビジネス書に仕立てられており、人を動かすカルト的なテクニック、ブランディング、マーケティングがきめ細やかに解説されている。

帯に「影響力の真実を知るための一冊」とあるように、それは熱狂であったり、その人達が描く願望であったり様々で、「人はこうなってしまう」を知ることができる。

最終章は補足的な「大切な人が悪質な集団や思想に取り込まれてしまったら」。色んな手口を知った後で、あくまで一般論に沿ってではあるが、著者の考え方が書かれている。問題行動のケースごとに相談窓口もまとめられているので参考にして欲しい。

前著「あなたを陰謀論者にする言葉」(フォレスト出版)はカルト・オカルトの近現代史を振り返りながら、現代病とも言える「ネットで真実を知って目覚めちゃった人達」にスポットを当て、膨大な文献を元にそのトンデモ思考の源流を探る良書だった。

義務教育の教科書にした方がいいと思いつつむさぼり読んだ。

フォレスト出版から

フォレスト出版から


そんな初の書籍から3年。今回も取り上げられているのは主に「目覚めちゃった人達」であり、マルチ商法などのビジネスにハメ込まれる人々だ。

今、ここではないどこかへ」の思いを募らせた人が、陰謀論などの物語にハマり、どのように集団化し、その熱狂を利用されているか。こんな手法を知られていいのか、と思ってしまう「禁断の書」にして、ネットにはびこる色んな「界隈」を分析する時に必携の一冊と言えるだろう。

イラスト・グラフィックも織り交ぜて分かりやすく、何よりネット記事に慣れてしまった我々に嬉しい横書きである。

(グラフィックの一例)

(グラフィックの一例)

著者はカルト的な手法を警告するためにあえて詳しく書いたのであって、「間違っても個人や社会に危害を加えるような団体を作ることに使わないで欲しい」との願いは何度も記されている。

ただ、これを手に取る人の大半は、事例として挙げられている集団とは一緒にされたくないと思うに違いない。

なにせ本を開いてド頭から参政党の登場だ。

反ワクチン、陰謀論、農業デマなどを散りばめながら熱狂させてお金も取っているアレな感じの国政政党(いや国政政党なんですよこれが)。この本のテーマにドンピシャすぎると思う。

それもそのはず。雨宮氏は、「日本をナメるな(×3)」の絶頂快感フレーズが生まれた参院選投票前夜、あの芝公園での熱狂を目の当たりにして「その時、筆者は何かの閾値(いきち、しきいち)を超えてしまったような群衆のエネルギーを感じた」。それがこの本を出すきっかけになったそうだ。

初めて参政党に感謝してしまいそうになる。

参政党だけでなく、雨宮氏は様々な事例を取材して現場で見ている。特に、潜入もしてきたマルチ商法の劇場型パフォーマンスや集団生活、洗脳などのやり口についての高い見識はこの本にも詰まっている。

また、著名人とあらばゴム人間だとする陰謀論、反ワクチン集団・神真都Qの「松ヤニ」、三浦春馬さんは他殺であるとする一団のデモなどの幅広い(しかし狭い)トンデモ案件も、すぐ間近で観察してきた一人だ。それらについても漏らさず書かれている。

そんな雨宮純や黒猫ドラネコ、やや日刊カルト新聞と一部ウォッチャーたちが楽しんでいるものを一般の方々が知ったところで戦慄が走るだけかもしれないが、そんなもんでも、人が触発された時に心に抱くもの、外部との差異を認知させる手法、付随するジャーゴン(内輪だけの専門用語)や儀式によるシンクロニシティなどは、この一冊で改めて正確な知識として取り込むことができる。

いつもながら雨宮さんには感謝である。

何かにハマって集団化してしまった時の懸念は、そこに良識があるかどうかだろう。信じたものの正当性を主張しようとして人は粗暴になり、やがて良識を踏み超えることがある。

2021年にアメリカで起きた議会議事堂襲撃を忘れてはいけない。愚行に及んだQアノンについては、セオリー4(4章)「覚醒の物語を現実世界とリンクさせ、信者を没入させるスイッチを埋め込む」にて、代替現実ゲームとの類似性などからも学ぶことができる。

あんな事件は日本では起こらないと言えるだろうか。いまや堂々と陰謀論をまき散らしながら「陰謀論なんかではない」と宣う集団が乱立し、国政や首長選挙にも出て、今日もセミナーや集会をそこらじゅうでやっている。

彼らは現実世界で起きていることを茶番だと思いがちで、彼らなりの謎解きゲームを始めて勝手な答えにたどり着く。「悪者」を探しあて、そして…。

あと一歩を踏み出さないとは誰にも言えない。集団化した時に人は怖い。多くの人が心酔する思想の後ろ盾を得た危険な個がそこに存在するのだ。多数の味方に勝手に背中を押された気になるヤベえ奴はそこらじゅうにいる。

さて、ヤベえ奴を突き動かす「今、ここではないどこかへ」で連想したのは、ほぼ同名のGLAYの名曲だ。

無邪気な季節(とき)を過ぎ 今誰もが戦士たち(『ここではない、どこかへ』2003年)

そんなサビのフレーズとともに、ちょうど私たち世代は、GLAYといえば伝説の「20万人ライブ」の熱狂が記憶に刻まれている。

くしくもこの9月末、東京・有明で「光の戦士」とも称される反ワクチン集団が「10万人デモ」を企画している。全盛期のGLAYだから成し遂げられたような巨大集会が本当にできるのかは置いといて、まあ熱狂はするのだろう。

「今、ここではないどこかへ」の思いから人々はカルト集団と化してしまうことを、この本が教えてくれる。そしてその実例は今まさに、皆さんの身近にある。危険だからこそ知っておくべきだ。

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▽以下はメール登録者限定。ラブレター的な人物評です

雨宮純という男

私が雨宮さんを初めて認識したのは、ちょうど4年前。

まだ彼が以前のハンドルネームだった時に「子宮系スピリチュアル」に関するトークイベントを開催するとの告知を偶然に見つけ、当時、既に子宮系のことを取り上げるネット連載を持っていた私はイタズラを思いついた。

「おいおい、この私や山田ノジルを差しおいて子宮系を語るなんて一体どんな野郎だ。ツラおがんでやろう」。そのぐらいの気持ちでイベントにこっそり乗り込もうとしたのだ。

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