【書評】陰謀論+スピの「コンスピリチュアリティ入門」

待望の書籍が発売。レビューです
黒猫ドラネコ 2023.04.08
誰でも

どうも、黒猫ドラネコです。

どんなに良い自転車を買ってもいつも軋(きし)む音が気になります。

少しのお休みをいただきまして、今回のレターは書評を送らせていただきます。

 国内の有識者7人による共著。まさに豪華執筆陣で、トンデモ観察が趣味の私にとって、こんな一冊が欲しかったという良書でした。出版社と編集者さんに感謝します。

 「コンスピリチュアリティ」とは、陰謀論(コンスピラシー)+スピリチュアリティを表す近年の造語。それに関しての日本初の論考集(本書の帯による)だそうです。「入門」とは言っても、宗教史や思想哲学などのかなり専門性が高い内容もあって、知識の浅さに自覚のある私としては「さあ学ぶぞ」と覚悟や集中力が問われる読書になりました。でも、こんな講義だったら大学時代にいくらでも受けたかった、なんて思いながら。

 著者それぞれに色があり、まるでリレー講座を受けているかのよう。今回は私があまりにも簡単に稚拙にまとめるご無礼を承知で、一つずつざっくり触れていこうと思います。実は冒頭部分に「本書の構成」としてそれぞれの章の概要があったのですが、それとは別でこのレターの読者の皆さまにも興味を持っていただけるように、私なりの感想も踏まえつつ…。

 先陣は、宗教学者の辻隆太朗氏による「コンスピリチュアリティとは何か」です。主にその定義への確認作業でした。陰謀論の思考やスピが結びつく理由が何なのかを学術的な視点から述べられています。いきなり肉厚で、何年ぶりかに勉強をした気分になります。例として分かりやすいオウム真理教にも触れながら、海外での「カルト的環境」「ニューエイジ思想」との結びつき、ウェルネス系インフルエンサーによる拡散と経済動機などにも言及。具体的な陰謀論とその提唱者なども多数引用されていて、かなり幅広く取り上げていました。前書きに続いてこの本のベースとなる章です。

 2章「神真都Qと陰謀論団体とコンスピリチュアリティ」で続くのが、我らが雨宮純さん。ウォッチャーとして足を使って見てきたトンデモ案件についての考察です。ついに俺達の神真都Q、そして俺達の前から消えてもらいたい参政党の顛末が取り上げられました。昨今の陰謀論まき散らしの二大巨頭(?)についての解説は必読。さらには謎の「セーラームーンプロジェクト」や「ネサラ/ゲサラなど通貨リセット」説など、陰謀論マーケティングやビジネス色の側面も示されています。

 一昨年の著書「あなたを陰謀論者にする言葉」を皮切りに、ますます新時代のオカルト・陰謀論コメンテーターとしての道を歩み始めている雨宮さん。同志として本当に誇らしいです。

 続いて「コロナ禍とコンスピリチュアリティ ―コロナ死生観調査から」。東大大学院教授で宗教学者の堀江宗正氏による分析が、本書のスパイスとなっています。副題「スピリチュアルな人は陰謀論を信じやすいか」のアンサーにもなり得る、「実はそうではないのでは」との疑念がスピリチュアリティの解説とともに投げかけられます。コロナ禍でのアンケート調査の統計から、関係性が薄いことを読み解いていくのは興味深いものでした。

 「陰謀論はフィルターバブルが原因ではない」(要約)などの仮説は、ツイッター上で実情に多く触れてきた私にはやや同意できない部分もありましたが、しかしその後の、陰謀論者はスピの中でも少数派だが声が大きくてたくさんいるように見える、との推論には膝を打ちました。

 さて、ここで私が最も楽しみにしていたジャーナリスト清義明氏の出番。「宗教と陰謀のブリコラージュ」です。以前お会いした時に伺っていたのですが、まさかの「スピ系陰謀論団体X(本書の表現ママ)」がテーマ。書籍で重点的に取り上げられたのは日本初ではないでしょうか。この団体は四国に拠点を置き、「日本に裁きが下される」などと喚く韓国系のキリスト教セクトです。そこから発信される何プト理論だかなんだかのブログ記事は、反ワクチン、ケムトレイル、人工地震などオーソドックスなデマが満載。今や陰謀論界隈のソースとしてだけではなく、思慮の浅い著名人までも勘違いして一考の価値ありのように記事を引用してしまい、ツイッターで大きく拡散されることがあります。

 この団体Xの所業から「田布施システム」そしてQアノンの背景にある米国のキリスト教福音派の土壌、陰謀論者の言論空間としてのSNS構築などへと連なるコンスピは、色んなものがアメーバみたいに結びついているかのよう。「ブリコラージュ」は寄せ集めて作るという意味。ふさわしい言葉です。清氏の展開と考察は読後感も期待通りでした。

 続いては、比較文化史家の竹下節子氏による「フランスとアングロサクソンのコンスピリチュアリティはどう異なるか」。実はタイトルだけを見て失礼ながら「自分はこれに興味が沸くのかな」と心配してしまったことを、この章を読みながら大いに恥じました。政教分離が確立したフランスでコンスピが拡がりにくかった背景と、日本との類似点、それと逆になぜ米国で拡がりやすかったか、そして現在のフランスにも影響が出ていることなど、宗教史や文化の観点などから非常に分かりやすく解説されていました。

 世界的に見てもカルトにかなり厳しいフランスの事情は、以前から気になっていたことでもあったし、米国でマーケット化された自己啓発についてなどにもかなり詳しく、なんなら本書で最も強く引き込まれた章だったかもしれません。

 ラストは、英文学者で作家の横山茂雄氏と、近代宗教史研究者の栗田英彦氏による対談です。「コンスピリチュアリティは『新しい』のか?―陰謀論の現在」として、いきなりQアノンから参政党へと入ってくれるのが、やはり有識者にも喫緊の問題をしっかり共有されているようでやけに嬉しいものでした。そして当然の如くトークテーマは多岐に渡ります。コンスピの定義の曖昧さや政治的イデオロギーなどを、それまでの5人の論者に直に触れずとも補完していきます。

 対談内でのコンスピの概念自体への批判的な論調の中、特に「陰謀論のレッテル」を貼ってしまうことへの懸念は印象深いものでした。元々の思想や知識体系が一般と違うこと、神や悪魔よりも具現化できるレプティリアン(雨宮さんらの章などでも言及される爬虫類型人間)などを例に、むしろ陰謀論側の方が社会通説と自説の二つをよく認識しているとも断言されています。

 これは「彼ら」への押しつけや拒絶が意味をなさず、異論封殺にも繋がるという趣旨で述べられています。陰謀論ウォッチをするにあたって、雑になったり暴走したりしがちな時の安全装置になりそうな考え方です。

 上記の7人とも「コンスピリチュアリティ」をテーマに、それぞれの視点で語ってくださっています。最新の「陰謀論+スピ」への協奏曲。私はこれから何度も聴き返すことになるでしょう。

 その概念がまだ揺らいでいる「コンスピ」が世間的に流行しているかどうか、近年の混乱から派生したネット上での局地的ブームを言語化したに過ぎないというのも正しいのかもしれません。ただ、そうした「よく分からないもの」がSNSを通じてなぜか自信満々に誰かを染めようとしたり、誰しも触れられる場所まで溢れていたりする時流にあって、この本で知見を得る喜びはきっとあるはずです。

 ご興味のある方はぜひ手にとってみてください。

(黒猫ドラネコ)

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