【潜入ルポ⑤完】「銃で民主党を退治」トランプ側近の過激演説に喝采。ファッションショーと合唱で締めた参政党の政治資金パーティーin東京ビッグサイト
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トランプ側近の演説
スクリーンには、トランプ元大統領の演説の様子などがカッコよく編集されたプロモーション映像が流れた。
目玉のコーナーだ。「トランプは勝てるのか?トランプは米国と日米関係をどう変えるのか?」との講演。
登壇するのはトランプ氏の側近だというマット・シュラップ氏である。ステージに姿を見せると、流れていた洒脱なBGMがなぜかカントリーソングに変わった。「ほら、アメリカ人のおじさんが出て来たよ」と示したのか。
本人が選んだのでなければ、ちょっと馬鹿にしてない…?
(保守派集会CPACのサイトの紹介より)
シュラップ氏は片手でマイクを持ち、ジーンズのポケットに手をつっこんでウロウロしながら演説を始めた。
日本人なら咎められそうな態度だが、恰幅のいい白人のおじさんがやると、なぜかすごく絵になる。
「ハローマイ“サンセイ”フレンズ!」
聴きとりやすい英語。観客席には「おおおー…フレンズと呼んでくれた…」といった喜びの拍手が広がる。
10秒間隔ほどで区切って、舞台裏から若い男性の声が通訳する形。おそらくプロを呼んだのだろうが、やけに機械的な日本語訳だった。
こうした方式に慣れていない観客は、通訳された後の言葉のほぼ全てにパチパチパチと拍手をしてしまい、常に変な間が空いてしまう。通訳と拍手を待つ状況ではジョークもいま一つ乗り切れない。
しかし、そこはさすが米保守派論客。参政党がビンビンにシンパシーを感じるはずの演説内容であった。
「アメリカのメディアは多くの誤った情報を流している。多くのアメリカ人は参政党のみなさんと同じようにグローバリストの国への過剰な介入と戦っている。GAFA、SNSのプロパガンダ、WHO、EUなどの圧力に抵抗し、中国がそれらにお金を出している現状を嫌だ、止めろと声を上げている」
「CNNは非常に多くの嘘を垂れ流す。アメリカ政府の中にいるディープステート(DS)の人々が問題を引き起こしている」
大好きな「グローバリスト」「DS」などのワードが発せられた時に観客が「おお…やはり…」みたいに沸いて頷く。私がずっとニヤニヤしていたのは言うまでもない。
話題は「トランプは迫害されている!」へと移っていく。
「捜査機関を使って選挙に出させないようにしている」「大統領の権威を使って自分の対抗馬を逮捕している。このようなたくらみは民主主義を破壊する」
とにかくバイデン政権は全部悪くてトランプが全部正しいみたいな論調がしばらく続き、「参政党にもメディアからの攻撃などで同じことが起こるだろう。そんなのは予測して準備して笑っていろ」みたいな話になった。
「グローバリストがあなた方のような人々の本当の声を圧殺しようとしている。日本でも起こりつつある。あなた方のカミヤ議員は勇気のある人。彼のように政治にかかわる人気のある人には必ず攻撃があるものだ」
「アメリカでは多くの人が気付いている。参政党のような素晴らしい人々が、自由を信じ、家族を愛し、国の主権を取り戻すために連携してグローバリズム、グローバリストのたくらみに対抗しようとしている。皆さんもぜひ日本の政治に新しいアイデア、価値観をもたらしてください」
参政党を励ましつつ「現米政権の左派は酷い」「トランプは理不尽な攻撃を受けている」ばかりの実にまとめやすいスピーチ内容だった。
演説の中で個人的に気になったことを挙げると、まずシュラップ氏らが主催する保守政治行動会議(CPAC)というイベントの紹介をする際に、「あえば浩明をはじめ素晴らしい人達に会うことができる」と述べたことだ。
CPACジャパンの中心人物のあえば氏といえば、幸福実現党の初代党首。その辺のことを観客席の方々はご存知なのだろうか。
それから、締めの言葉の「自由を愛する人がホワイトハウスを”奪還”すると信じている。それを担うのがトランプ大統領です」にはやはり嫌なイメージが浮かんだ。トランプ狂信者のQアノン連中が連邦議会議事堂に突入したことを思い出さずにはいられない。
思い込みの激しい人を前に、共通の敵を作って焚き付ける手法は海の向こうでも同じなのだろう。
ただ、なんにせよ勇気付けられた参政党員は多かったに違いない。
演説を終え、手を振って歓声に応えながら胸のオレンジ色のポケットチーフを指差したシュラップ氏。「あ!みて!参政党カラー!」と党員も盛り上がっていた。
本当チョロいな、ここの人達は…。
物騒な会談と謎の熱狂
ステージには山中泉氏と山岡鉄秀氏が登場。ここからシュラップ氏との会談のような形に移る。
山中氏は、東西スピーチ対決にも登場していた衆院選の公認候補。「東北一揆だ参政党!」(…?)を掲げており、LGBT法案のことを「性の垣根を取り払うとんでもない考え」と語っていたおじさんだ。
山岡氏は、党の講演会や対談動画などに頻繁に登場する保守派言論人で「情報戦略アナリスト」である。「安倍元首相は山上以外のスナイパーに暗殺された」というような説を信じているらしいおじさんだ。
あのさあ…。
両者とも党員の人気は高いようだ。まあそうだろうね、としか。
(対談動画のサムネより)
椅子に座ってシュラップ氏を二人で挟む形で、米国生活が長いらしい山中氏が通訳を務めてスタートした。
「トランプは勝てるのか?」のテーマの通り、またもや自分達のボスが米国で妨害されていて、バイデンは中国と繋がった悪だという陰謀論めいた話ばかり。山中氏が通訳を超えて自分の解釈を加えはじめ、三者対談のような形になっていく。山岡氏も英語を交えて質問するのでよく分からない状況だ。
ねっとりした英語と日本語を半々に、山岡氏から質問が飛ぶ。
「トランプはとんでもない攻撃を受けている。本当に大統領選に出られますか?」
シュラップ氏は「もしトランプが刑務所に入る事態があれば、アメリカの多くの人々は立ち上がるだろう。司法の横暴を許しちゃいけないと」と答えた。
またもや物騒に聞こえてしまう回答である。
続けて山岡氏は「トランプがめでたく大統領に返り咲いたらDSを撲滅できる?それともアメリカは永久に赤と青に分断することになるのですか?」と問う。
例によって観客も大喜び。ノリノリになったのかシュラップ氏は放言する。
「共和党は民主党の人達を見るときはキ●ガイでバカみたいな連中だからそこに留まっていろと思っている。民主党は嘘がうまく、教育などでありとあらゆるデマを流す。カリフォルニアもどんどん中国人が入ってきてウェルカムチャイナみたいなおかしな州になった。アメリカはほぼ全ての州でガン(銃)を持てるから、悪い民主党を退治してくれるんじゃないか?」
良い笑顔だったのでもちろん冗談なのだろうが、ここで拍手はないだろう観客よ…。
しかし、毎年のように銃社会での悲しい出来事が起こる中で、ブラックジョークにするのも無いよこんなの。酷いなあ。
山中氏が通訳のための確認で「Gang(ギャング)って言った?ああGun(ガン)って言ったのね」とニヤニヤしながら英語で聞き返していたことにも虫唾が走った。分かっても訳すなそんなの。
日本とは違って支持政党が二分されていることに対し、シュラップ氏はコロナ禍と絡めて語った。カトリックであるため、感染対策で教会までも封鎖されたことで「宗教の自由の方が重いはずなのに」と異議を唱える。
「アメリカは大半がマスクをしてワクチンを打ち、ロックダウンもした。でもこの次はみんな従わないだろう」
反ワクチンの大物であるロバートケネディ・ジュニアの調査を信用しているらしく、自分の家族もワクチンを打たなかったそうだ。観客席からは予想通りに大喝采が起こっていた。
これに山岡氏が畳みかける。
「WHOが恐ろしいことにパンデミック条約、保健規則の改変をして全体主義がやってくる。期待はトランプが拒否することですよね?」
シュラップ氏は大きく頷き、「トランプはWHOの拠出金を拒否した。中国はとんでもない脅威なのにWTO(世界貿易機関)に入れた。米国を世界地図から消し去ろうとしていた勢力に闘いを挑んだのがトランプなんだ」
とにかく参政党が喜びそうな回答ばかりするなこの人…。
「トランプなしで日本の政府ができるかということですよねぇ?」と、すり寄る山岡氏は置いといて、シュラップ氏によると、トランプが大統領ならプーチンにも恐れられているから戦争を止められるそうだ。
ここで山岡氏が「米国政権は日本の軍事独立や核武装を望まなかった。トランプで変わり得るんでしょうか?」と尋ねた。
シュラップ氏は「アメリカは核大国なのに、日本に持たせてはいけないと言うのはおかしい。大半の人達は日本人が国を守ることに反対しないだろう。自らを守るためには当然だと思うのが主流だ」と回答。これも党員の考えと合致するらしく、拍手喝采が起こっていた。
山岡氏は持論に合致するのであろうこの機を逃さない。「使わないために、持つ。抑止力ですね?」そう被せて拍手を自分の物にすると、観客を煽りにかかった。
山岡「でもみなさん…?トランプがそう言ってくれて、心ある共和党の人々が日本の自立をサポートしてくれても、日本側にそれに対応できる政治家がいると思いますか?」
一旦は静まりかえる会場。
しかし、すぐに客席のどこからともなく泣くような小さな声が聞こえてきた。
観客「いるよぉ…神谷さんが……」
ぐはぁ!いよいよ気持ち悪くなってまいりましたよ、これは。
何かに気付く観客。山岡さんの問いかけに応えなければ。そうだ私達には神谷さんがいる!
「神谷さん…!」「神谷宗幣!!」と呟く声が大きくなっていく。
山岡「それに対応できる政党があるとしたらどこですか?」
観客「参政党!」「参政党ぉー!!」
(拍手が広がる)
山岡「それに対応できる国会議員は、誰ですか!?」
観客「カミヤー!」「神谷さーん!」「神谷宗幣――!!」
(拍手がどんどん拡大していく)
ひいいぁあ…。誇張抜きに小さく震える私。助けて…誰かここから出して…(自分で潜入してんだろ)
この怖いコールアンドレスポンスの最中、山岡氏が「もっと来い」とばかりに招き猫の手の逆にしたみたいなジェスチャーをしているのを確認してますます震えてしまう。
アメリカから偉大な(?)ゲストを迎え、内容はやや過激ながらも落ち着いて談笑していたさなか、突如として意図的に起こした謎の熱狂。一体どこに着地させるつもりなんだ山岡氏は。
山岡「じゃあ…次の質問…聞いてみましょう」
…ンンンン!? お、終わりか!?
ズコー!! なんやったんや今の盛り上げは!
熱のやり場がなくなって照れ臭そうにざわつく観客。そして、歯を食いしばって堪える私にトドメを刺したのはシュラップ氏である。
シュラップ「今のやりとりは何て?」
山中「日本でそれができるのは参政党だけだって言ったんだ」
シュラップ「ああ…(にっこり)」
共感性羞恥でこっちが真っ赤になってしまうような一幕。物騒な話題ばかりだったので、少しだけ場が緩んだことだけはよかったかもしれない。
この会談では、LGBTについても「小学生のうちから『あなたは男にも女にもなれる』というような教育を許してはいけないんだ」「恐ろしい文化大革命のような、『男が女の子になれる』という様々な左側の政権がやってきているものと戦う」などの首を傾げる言葉が多くあり、参政党のLGBT法案に対するスタンスとほぼ同じ強めの主張が繰り広げられていた。
締めは山岡氏が、CPACに神谷代表が登壇することを宣伝しつつ、「日本が自立するために神谷宗幣を世界の舞台に送り出そうではありませんか!」と叫んだ。
大きな拍手が起こったが、ちょっと何を言っているかよく分からない。
ファッションショーにあの人が
開始からおよそ7時間が経過。いよいよ(やっと)パーティーも終盤だ。
ここからは党員によるファッションショー「参政党オータムコレクション」の時間である。
読者の皆さんから「なんでやねん」と聞こえるような気がするが、ちゃんと私も会場でそう呟いておいたので安心してほしい。