逮捕にも反省の色なし。新たなビジネスは…「がん新薬」を謳い株を売る会社のセミナー【後編】
前編はこちらから
なお前編を読んでくださった被害者の方から、以下のような紹介がありました。
「集団訴訟になっています。声をあげないままだと、警察が凍結した口座が『被害者ナシ』として国に没収されてしまう可能性もあるようです。和解金でほぼ全額回収見込みができたケースもあったそうなので、このような会社にハマって悔やんでいる方、どうしていいか分からない方はいませんでしょうか」
この場でも伝えておきます。以下は参考に。
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目を輝かせる株主たち
スクリーンには映画のダイジェストが流されている。
重苦しいBGMが流れ、主人公の男は刑務所に入れられる。服役中に電報が届くと、男は「娘が…」と絶句し、泣き崩れた。わが子が亡くなった知らせが届いたのだ。
「その時から、私は笑う事を止めました…」
出所した男は、「がん新薬」の開発を続ける。なんやかんや襲撃されたり車に追突されたりの妨害に遭いながらも、海外の研究機関などに支援を仰ぎ「現代医療に取り残された末期のがん患者を救いたいんです!」。世間の逆風に立ち向かっていく。幼くしてがんで亡くなった娘や、高校生で白血病で亡くなった弟を思いながら―。
7月28日、千代田区内でおこなわれたウィンメディックス社のセミナーの後半は、白木茂代表をモデルにした物語の上映からスタートした。
私がこれを見るのは二度目。前回の銀座セミナーでも全く同じものが流されていた。
灰色のスーツ、やや伸びたビジネスツーブロックのようなヘアスタイル、高そうなメガネをかけた白木茂代表は45歳。中堅アナウンサーみたいな整った容姿と、滑らかで落ち着いた良い声だ。
今春を含めて二度の逮捕歴があるそうだ。
「初めての方は?」と挙手を促した。高齢者ばかりの150人ほどの客層で4、5人しか手は上がらない。そのまま「株主さんは?」と言うと、会場の8割ほどが手をあげた。この会場にいるほとんどが、ウィン社の株を買っている人だったのだ。
白木代表はまず、「すごいのができました。たぶん世界で一番だと思いますけど(YouTube動画に)繋がってます?言っちゃいけないんですね?(言うのは)やめましょう…」などとジャブを入れながら、「今日はみなさんに使っていただきたくてお越しいただきました。弊社の株主さんは平均年齢69歳。大体しみや皺があるので、この化粧品を使うと10、20歳ぐらいは元に戻りそうな気はします」と、まずは新製品のあおりを入れてきた。
この「化粧品」はサンプルも配られた。後述する。
次に白木代表は「がん治療の95パーセントは間違い」「薬に殺されないように」などの多彩な本をスクリーンに示しながら、抗がん剤を使うことによって臓器が不全になり劣化して衰弱して亡くなるのが「がん死」だと明言。治療は全て誤りで自分の力だけで治せるというような結論だった。
標準治療をするなというようなことも平気で発言した。熱が出ても解熱剤はいけないのだそうだ。また、火傷で水ぶくれができるのは体じゅうから水分を集めて水の膨らみを作って治そうと判断するからで、人間の体はそうした力で治るようになっているとの話だ。(毎回こうした同じような話がある)
高齢の観客(株主)はみんな目を輝かせながら頷いていた。
(スタッフと実演もしてみせていた白木茂代表(左))
突然の悲しいBGM
「娘ががんで死にました。17年前です」
「もう…それだけの年月だから悲しくないでしょうって?苦しくないでしょうって?…一度体験してもらえると分かります。30年経っても、40年経っても癒えることはないんです…」
白木代表がそう口にすると、スクリーンには小児がん患者と思しき複数の子どもの写真が大きく映った。そして会場内にはここから突然、悲しげなBGMが流れはじめた。マジかこれ…。
大切な家族を失った人の悲しみを馬鹿にするつもりは毛頭ない。しかし、こんなにもオーソドックスな催眠みたいな手法なんだ…と面食らってしまう。実際しばらくしてから、リピーターばかりであるはずの観客席からすすり泣きが漏れた。
白木代表は病気だらけの家系だったという。身内や幼い娘をも亡くし続けて「こういう星の下に生まれたのかなって…考えましてね…」と寂しそうに語る。
苦悩の中、自身が捕まった過去や20回以上も追突される(?)など様々な妨害を受けてきたこと、「宿命」「命を削って」などのワードを散りばめ「株主さんたちからの励ましがなければできなかった」と感謝を述べた。
「(白木)社長に命を助けてもらいました」。そんな(利用者の声の)動画や、目の前のペットボトルを手に「もしもこの水で人の命を救えるとしたら」みたいな例え話なども交え、「効かない薬を売る製薬業界」「わが社の薬の開発を妨害する理不尽な社会」みたいな話を繰り広げた。
観客のほとんどは、様々な困難の中で「がん新薬研究(毒性を外したヨウ素らしく副作用が一切ないらしい)」に心血を注ぐ(のように言っている)白木代表をすっかり受け入れているようだ。
私は大部分を聞き流していたが、印象に残ったのは「STAP細胞」への言及。
「うちに持ってきてくれたら僕は必ず出しましたけど残念です。小保方さん…見た事ある人いますか…?亡くなっているかも分かりませんね…生きていることを願いたいもんです…」
ちょっと言い過ぎだと思ったのか、これには会場もざわついて困惑していた。
ヤクザの親分の正義
白木氏の講演は簡単に言うと、壮絶な人生を歩みながら「熱い決意」を持つご自身と、開発した製品の猛アピールだ。
そんなスピーチの中で、私の大のお気に入りは、過去に出資法違反の罪で服役していた時の小噺。冒頭の映画内でも描写があったが、この講演のラストにも詳しく語ってくれた。
刑務所での夜。病床の幼き娘を思って祈り、写真を抱えて布団の中で気付かれないように声を飲み込んで泣いていた白木氏。そのことを、同部屋だった暴力団の親分に知られてしまった。
そしたらなんとヤクザたちが「お前の娘、がんだろ。どうやったら治るんだい」と聞いてきたのだ。治療には白木氏の特殊な血液が必要で…。
親分「よし集まれ。(手下に)お前は醤油を盗め。(また別の手下に)お前は見張り。看守が来たらぶっ飛ばせ。醤油を鉄格子に垂らせば錆びて外せるようになるから、頭だけ出せ。俺達が押してやる」
白木「ここは3階ですよ」
親分「下は土だから足から落ちればいい」
白木「…あの高い壁はどうやって登んのよ?」
親分「毛布を結んで繋げて投げる。水道で水浸しにしたらそれが壁にくっつく。俺達が刑務官をやっつけといてやるから」
白木「あなたさあ…人殺したヤクザだよね。…あなた達だけリスクで、こちらにしかメリットがないじゃないか」
親分「バカ。我々は暴力団で相手は同じヤクザ。だから殺してやった」
白木「…」
親分「お前も悪いことをしたから刑務所に入った。でも、娘は何かしたのか。病気で苦しんでいる。だから助けるんだ。それが人間のあるべき姿だ」
「フッ…いっちょまえですよ、ヤクザが…」。白木代表は良い声による話芸を終えると、当時を思い出すように虚空を見つめる。
「これを聞いた時に…何が正しいのか…何が悪いのか、分からなくなりました」
寂しげにそう呟いた。
身内が亡くなったような話や、苦しかった経験を馬鹿にはしたくない。ただ、これを聞かされている間ずっと強く噛み締めていた私の奥歯たちには謝りたい。
こんなエピソードをしんみり聞く観客。あまりにもピュアすぎはしないか。
そんな大昔の漫画みたいな脱獄の提案や殺人犯のヤクザには何も正義はない。しかもその「何が正しいのか」って前に、シンプルに自分が罪を犯して捕まったから全部悪いんやないのか…。心の中で控えめにツッコミを入れておく。
あと、娘さんには特別な血液が必要だったとのことだが、前半の講演で「輸血は海水で代用できるのに献血の利権で」みたいな話をした元呉市議の谷本誠一氏は、最前列でどんな顔をして聞いていたのか。
そもそも、どんな気の毒な境遇があろうが辛い体験をしようが、なんや未承認の新薬がどうとかって言いながらがん患者に株を違法に売って荒稼ぎしていい理由にはならないのよ…。
反省の色なく逮捕もネタに
新たなビジネスとしたいのだろうか、白木代表は「化粧品」の説明と宣伝には時間を割いていた。
「30歳は若くなりませんが、10歳、20歳は若くなるはずです」
「世界の美容界に革命を起こすはず」
「医薬品より化粧品の方が法律は厳しいです。ですけど株主さんは女性が7割。美容のいいものを作ればまた来てくれる」
「…それで、こんなことをやっていると、どうなるか」
「逮捕されます(にっこり)」
スクリーンには、今春に自身や同社幹部の逮捕が報じられた際のニュースが大きく映された。それでなくても時折、内輪ネタのように「こないだちょっと”出張”してきまして…」なんて表現する。観客も手を叩いてドッと受けてもはやネタ扱いだ。
「世の中にないものを出そうとすると収監されます」と白木代表。完全に反省の色なしである。
むしろ、この空間には「新しいことをやると妨害を受けるものだ」みたいな反発のエナジーすら溢れている。
(逮捕の映像を自らいじる白木氏)
(以下はサポートメンバー向け。新たなビジネスや、最後に配られた謎のお土産や、内部事情などについて書いています)