「日本人は皆殺しなんですよ」!? 米軍ホテル前での抗議デモに密着
今回ばかりは警備にあたる警察関係者にもやや緊張感が増していた。
2月1日午前10時半。港区南麻布の狭い歩道で、50人ほどが集まって声を上げ始めた。
「解散しろ!」「日本から出ていけ!」「何を話していたのか公開しろ!」
車道を挟んで建つホテルに向かって罵声を浴びせる。利用客らしき外国人の方々や、道行く人が怪訝そうに集団を見ていた。
「ニュー山王ホテル」である。
米軍関係者用の施設となっていて、日米地位協定を協議する場所として知られている。
たびたび陰謀論者の間でも槍玉に上がる「日米合同委員会」が行われるというこの場所。そこに向かって、抗議活動がおこなわれた。参加者いわく、ここでのデモは「戦後初めてのこと」だそうだ。(本当か…?)
主催者によると、ニュー山王は「CIAの拠点」で、
「日本は米国の属国であるという象徴で、諸悪の根源である日米合同委員会。日本国憲法より上の存在に位置すると言われている日米合同委員会の廃止を日本国民として米国、米軍に対し求める」。
今回の活動にはそういう意図があるらしい。ふぅん。
(ニュー山王の外観)
濃いメンツによる過激な演説
告知で「右や左の思想の壁は超えて集まろう!」と広く募っていたものの、集まったメンツがかなり右寄りだったのはご愛嬌といったところか。
主催者は市民団体所属で三鷹市議会選挙に落選したトラック運転手の男性と、ユーチューバーの男性だ。
ここに「大物」として、日野市議会の池田としえ議員、米大統領選に出馬したという米国人男性、元自衛官の石濱哲信氏らがいた。
(マイクを持つ主催者の男性。右端は石濱氏)
わが国における反ワクチン活動の旗手でもある池田議員は、リンカーンの「government of the people, by the people, for the people(人民の人民による人民のための政治)」などを引用しながら、「米軍基地が日本にあるから北方領土は還ってこない」「80年前に戻って日本の主権を取り戻さなければならない」などと、主催者に続いて高らかに声を上げた。
さすが演説慣れしている。参加者にも慕われているようで、「池田先生ー!」と声援が飛び「国会議員になってほしいよね」との声まであった。
でも、そんな池田センセは自分のスピーチが終わったら結構早めに去って行った。
(声を張り上げる池田としえ議員)
次いで、米大統領選にも立候補したらしいパストリッチ氏という長身のアメリカ出身男性が、「日米のもっと対等な関係を」などと演説。
東大に留学経験もあって、アジア諸国を中心とした国際問題に詳しい学者さんでもあるらしく、流ちょうな日本語で戦後の日米関係のいびつさなどを語った。
降壇後は自身が取材された新聞記事のコピーをにこやかに配って談笑するなど、参加者からずいぶん歓迎されていた。
だが、終盤。そんな素振りは全くなかったのに、パストリッチ氏は突如として「コロナ詐欺 殺人ワクチン」と書かれた紙を掲げて私の度肝を抜いた。
不意打ちはやめろって…。ちゃんと段階を踏め、段階を。
(パストリッチさんが不穏なカードを掲出)
そして、時は動き出す。
いよいよ登場。どんなデモにおいても講釈がやたら長いことで、ウォッチャーから「陰謀論校長先生」と恐れられる極右活動家の石濱氏である。
「日米合同委員会の内容で全ての政治が決められている」「今はジェノサイドが行われている」
相変わらずよく分からない切り口で、ニュー山王ホテルを指しながら「残念ながら日本人は皆殺しなんです。そういうことを彼らは言っているんです」と断言してしまった。
あーあー、もうむちゃくちゃだよ。
石濱氏は「(海外の大学を出た)政治家はみんな日本人の顔をした金融ユダヤなんです」「トランプ大統領は結局ユダヤ人なんです」「ウクライナという大犯罪国家に日本は金を渡そうとしている」などと矢継ぎ早にいろんなものを暴発、炸裂させていく。
もちろん長くて打ち切られてはいたが、最後はやはり「俺は詳しいんだ」的な表情で「(デモ参加者の)皆さんは名前を出さない方がいい。今まで100パーセントやられています。彼らは狙ってきますから」と結んだ。
無敵の笑顔で荒らす抗議活動である。
(「日本人は皆殺しなんです」と石濱氏)
すると、共同主催者というユーチューバーの男性が腹に据えかねた様子で急きょマイクをとり、「殺されるかもしれない、名前を出しちゃダメだみたいなこと言ってましたけど!こういう抗議して名前出すと殺されるなんて向こう側のプロパガンダですから!」などと、怒りを含んだ叫びで反論の演説を食らわせた。
君達、こんなところでケンカしちゃってどうするの。思想の壁を越えて仲良くしなさいよ。私は楽しいから別にいいんだけどもね。
この他の参加者も、以前の反ワクチン・デモや「百万人プロジェクト」で見た顔ぶればかりであった。
(よかったら以下を参考に)
「話したい人はこちらに並んでください!」と、主催者からアナウンス。
この手のデモ恒例のマイクリレーが始まる。ビールケースを逆さまにした台に乗り、ホテルに向かって声を張り上げていく。福島、山梨、大阪など遠方からの参加者もいて、それぞれが思い思いに叫んだ。
主催者に向けての感謝や「勇気ある行動」と称える言葉も目立った。やはり先ほどの石濱氏による「批判した人はみんな消される」が効いているようだ。それでも、「命を懸けてもいい!」と叫ぶなどの熱い思いが発せられていた。
時間の都合で「一人7分ずつ」とのお願いがあったが、なぜか三線の演奏で民謡タイムみたいなのもあり、ほとんどが時間オーバーしてしまうなど、ほとばしる気持ちは萎える様子がない。
せっかくなので、今回のレター記事ではそれぞれの熱きスピーチの内容をここで全て割愛する。(ワォ!)
(ホテルに大声で叫ぶ。遠方から来た男性)
で、やはり狭い歩道に陣取ってしまっていたために、自転車が通れないこともしばしば。通行人が「邪魔だよ!」と口にしたり睨みつけていったりすることも何度かあった。
しかし歩道隣接店舗の関係者らしき人が、荷物を運び入れる際に「頑張ってね」とデモ隊に声をかけるというあまりに優しい一幕が。開店前とはいえ目の前で大騒ぎされて迷惑なはずなのに。各国大使館が立ち並ぶ地域に店を構える方ともなれば、やはり民度の高さを感じさせる。
これには演説者たちも思わず、「ありがとうございます!おおお!」と一気に調子にのr…盛り上がっていた。
ついに米軍へ要求文を…!?
さて、主催者によるデモ告知には、在日米軍に「要求文を渡す」と書かれていた。先ほどのパストリッチ氏が英訳したものもあるらしい。
「日米合同委員会を解散せよ」などと書かれたこの怪文s…要求文を渡す行動は、本来ならばスピーチ終了後にやる予定だったようだ。
が、「自分も壇上から話したい」との一般人が予想よりも多かったためなのか(時間オーバーで2回も制止される女性がいたりして)、まだスピーチがワーワー続く中でメインイベントは決行された。
主催者の男性は「私だけ行ってきますので」。付き添いの警察から「帯同は一人だけで」「大使館と同じような扱いだから」ときちんと指導があり、動画撮影者をともなって横断歩道を渡ってホテル入り口へと向かった。
なおも壇上から、主催者周辺には知られているらしい若者が「能登半島地震後の火災はマウイ島火災と同じですよね!」みたいなクソ陰謀クソ論スピーチを垂れ流す(まあ、コイツのことはいいや)。そんな中で、ついに抗議活動のクライマックスである。
(警察に付き添われてホテルへと向かう主催者の男性)
反ワクチン裁判などでよく見るユーチューバーだったか自称ジャーナリストだったかの中年男性が、主催者を連れ立っていく警官に、「(ホテルに)入ったら逮捕されるんでしょうか?」「いま治外法権って言いました?」などとしつこく話しかけている。
「やはり日米合同委員会の闇が!」みたいな雰囲気にしたいのだろうか。苦笑いであしらわれていた。こちらも思わず笑顔になる。
しかし、私も気になってはいた。
闇があるかどうかはともかく、厳重な米軍の施設にそんな要求文を渡す約束ができたり、ツテがあったりするのかと。
一体どうなるんだ…。果たして、デモ主催者は無事にお手紙を渡してみんなのもとに帰って来ることができるのであろうか…?
その結果はあっさりだった。