泣き叫ぶ演説とヒップホップ、通行人に「人殺し!」…陰謀論大集合”百万人プロジェクト”に著名人も参戦(後編)

国会議事堂裏から始まった陰謀論デモの後編です
黒猫ドラネコ 2023.05.07
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前編こちら

愛知県議、農水省職員を憐れむ

 農林水産省前に到着した「陰謀論者ご一行」は正面玄関と正対した。

 人数は議員会館前より少しだけ減って200人弱。通路も先ほどより広く余裕がある。炎天下の徒歩での移動に疲れたのか、木陰で休むご老人もチラホラ。無理はいけない。

(農水省前にて。過激な姿の参加者も)

(農水省前にて。過激な姿の参加者も)

 集団はまず、掲げられた「SDGs」の旗にブチギレていた。「こんなもの立てて」「西側諸国に騙されていることに気付かないの」と声をあげるおば様がかなりキツい。

 演説者は街宣車の上からスピーカーを響かせる。開いている窓もあったので、職員の方々にとってはさぞうるさかったことだろう。そこに向けて沿道からは「聞こえてんだろ」「偽善者、でたらめやるな」「税金を正しく使え」と次々に罵声が飛ばされた。

 ここでの主張は「TPP反対」「種子法を守れ」「種苗法を止めろ」「昆虫食反対」「畜産農家を救え」「ゲノム編集反対」「バイオ肉反対」「ラウンドアップ廃止しろ」「減反政策やめろ」「農薬の利権を周知しろ」「畜産殺処分を止めろ」「鳥インフルエンザ詐欺を止めろ」「子ども達に安全なものを食べさせろ」「人口削減やめろ」…。

 とにかくネットで見た疑問をなんでもかんでもぶつけていくスタイルのようだ。

 全般的に、なんとかして「良心」を刺激しようとしていたのが面白かった。農水省職員にも自分達のように「目覚めて立ち上がってほしい」「内部告発してほしい」という具合だ。先ほどの議員会館前とは雰囲気が違って、なぜか農水省職員は実は良い人達という設定があるらしい。本当のことが言えなくて苦しんでいるとでも言いたげだ。

 愛知県議になってしまった末永けい氏は車の上から、「ここに集まった私たちはあなたたちの味方です」と呼び掛ける。

「自民党が農林水産省の皆さんの能力を生かせる政策をとっていない」「コオロギは雑食で、中医学や聖書では不妊に使う薬。なんで子ども達の口に入るパンやお菓子に入れてしまうのか。国際金融資本や外国の農薬会社に忖度しなきゃいけない状況があるのでは。月に一回ニュー山王ホテルで開かれる日米合同委員会からの内容に書かれているんですか、日本人にコオロギ食べさせろって。そのあたりを教えていただきたい」

 勝手な妄想を全開にしながら、穏やかな語り口で「皆さんは何のために農水省に入ったのでしょう。そのことをもう一度、胸に手を当てて考えていただきたい」となぜか憐むように言った。なんでお前にそんなこと言われなあかんのや…。

「国民が目覚めていることに気付いてください。手を取り合って日本を取り戻していきましょう」

 そう結んだ末永議員はこの後、記念写真でも撮ろうとしたのか農水省の入り口前に踏み込んでしゃがんでいたところを警備員に止められ、対応した農水省の人達とケンカ腰の言い合いになっていた。手を取り合うんじゃなかったのかよ……。

(警備員らと揉める末永愛知県議)

(警備員らと揉める末永愛知県議)

 さらに何のパフォーマンスのつもりなのか、ずっと入り口前で頭を下げている謎のおじさんを見つけた末永議員は、「これは面白いな」といった嬉しそうな表情をした後、便乗して深々と意味不明なおじぎに付き合っていた。

 本当に誰だよこんなの議員にしたのは…。

(謎のパフォーマンスに付き合う末永議員=中央)

(謎のパフォーマンスに付き合う末永議員=中央)

根強いコオロギ食の陰謀論

 予想通りではあったが、農水省前では「コオロギの危険性」を唱える演説者が続出。

 政府や農水省がコオロギ食を無理やり進めている事実はないし、端的に言えば単なる被害妄想なのだが、ママの代表者ヅラした陰謀論おば様たちにそんなものは通用しない。

 「中絶薬に使われていたものをあなたたちは子どもの給食に入れようとしているんですよ。責任とれるんですか」「なぜコオロギを子どもに食べさせるの。それはあなた達のお金儲けしかありません」と勝手な断定をしまくる人がいたりして、もうむちゃくちゃである。

「子ども達の給食にはオーガニックが使われない。安全なものを食べさせたいのに。日本のお菓子は海外では発がん性物質の表示がされている(?)。あなた達も人の親のはず。もう少し日本人のために仕事をしてください。日本の子ども達を守ってください。人として真っ当に生きてください。本当の仕事をしてくださいよ…」と泣き叫ぶようなおば様も。使命感にかられるように、ひたすら農水省を責める強烈な女性が多かった。

「ツイッターで見ましたよ。放射線米を作るって。許しませんよ。子どもを作れない社会にしようとしているじゃないですか!」

 沿道からも「そうだー」「ちゃんと聞けー!」「米返せー!」と同調だ。

 特にこのおば様は、コオロギの脚(あし)にカドミウムが含まれているとして、「太陽光パネルが壊れた時にカドミウムが土壌を汚染する。それを隠ぺいするために(コオロギ食を)やっているのかなと思っちゃうんですよ。違いますかー!?」と、マイクの声が割れるほど絶叫していた。

 …なんなんだその話。食わされてしまうらしいコオロギでどうやって隠蔽するんだ…全く意味が分からない。もしそんな危険な虫なら、野生のコオロギが死んだ時にそこの土壌はどうなるんだよ…。

 農薬の危険性に言及した人は、「あなた方のお金儲けにはうんざりしているんです。私はJAなんかでは買わない!農薬にまみれたものは食べたくない!あなた方の嘘に気付く人が出てきている。この国の農業は私達『目覚めた人達』が取り戻していきます!震えて待ってろー!」と叫んだ。

 観衆は「いいぞー!」と大拍手。じゃあもうお前らだけで勝手に農業やれよ…。

(農水省に向かってコールする参加者)

(農水省に向かってコールする参加者)

 終始、「支配層」が自分達の生活を脅かしているというような思考であった。このほか「ラウンドアップ、グリホサートなど海外で禁止されている農薬が日本で使われている」「鳥インフルエンザは詐欺。鳥を殺すから卵が高くて買えない」「不審な火事で牛や豚が殺されている」のような数々のデマが展開された。

 こうした農業や食に関するデマなどについて、まともな皆様の情報源としては「アグリファクト」を参考にされたい。かなり詳しく分かりやすく書いてくれている。

 また、興奮しすぎて何を言ってるか分からなくなったのか「コオロギなんかで日本は守れないんです!」と叫ぶオバ様もだいぶキツかった。そりゃコロオギでは守れないだろうよ…。

 こんな様子で一生分の「コオロギ」を聞いた気がするが、最後も主催者の毛利秀徳氏がマイクをとって「エビデンスが欲しい。あなた方がコオロギを1年間食べてどうなるのか、それで安全だと分かったら国民に食べさせてください。昼休みの食堂でコオロギを食べてくださいね」と笑顔で呼びかけた。

 そして一緒に街宣車の上に立ったユーチューバー三納(登録者数54万人)が再び紹介された。ひらけた場所で注目を浴びた三納もノリノリで、農水省に声を向ける。

(農水省に向かって演説するユーチューバー三納)

(農水省に向かって演説するユーチューバー三納)

「デモの動画を上げます。僕らは止まらない。変わるまで止まらないと思います。なんでこういうことをやるかというと理由が分からないから。理由を言えるもんなら言ってみてください。コオロギ食とか、なんでって感じなんで、ワクチン打て?なんでって。このなんでを聞かせてください。理由を述べろー!」

 絶叫した三納は続けて「インフルエンサーなので」と言って、先ほどの議員会館前と同じように謎のデスメタルみたいな下手な歌を流した。

 曲の合間に「理由を述べろ、理由を述べろ! 税金返せ、税金返せ!これが俺達だー、理由を述べるまで止まらねえぞ!これが国民の意見です!」と気持ちよさげにシャウトしていた。

 有名なユーチューバーらしいが、エンタメで得た影響力を活動家に乗せられて使ってしまうのはとても残念なことだと思う。

厚労省前は罵声とHIPHOPとダンス

 集団はおよそ1時間で農水省前から移動した。

 徒歩5分ほどで、続いては厚労労働省前。到着すると数は150人ぐらいに減っていたが、ものすごく狭い通路にひしめいている。

 ここが彼らのメインディッシュ。陰謀論者さんにとって反ワクチン思想は一丁目一番地である。早くも怒号が飛び交っていた。

 まず入り口ではためく鯉のぼりにブチギレているおじさんが。

「見てくださいこれを!こんな鯉のぼりで子ども達を守る善意を見せてあんた達が子どもを殺しているんじゃないか!」「平気でワクチンを打つ人殺し集団!」

 実名で「〇〇局長、出て来い!」みたいに言って「そうだー!出て来いー!」と盛り上がっていた。何かの動画でも見て名前を覚えたのだろうか。

 ここでは完全に厚労省=極悪の設定だ。

(厚労省前の鯉のぼりとプラカード)

(厚労省前の鯉のぼりとプラカード)

 やはり自分達が正義で何を言ってもいいと勘違いしているふしがあり、演説者がスピーカーで「コロナワクチンは明らかに殺人注射です」「ファイザーは安全性のテストなんてするわけないと言い放っている」「実験動物が全て死んでしまった危険なもの」などと酷いデマを喚いていた。

 さらに過激な演説者になると、厚労省を何だと思っているのか知らないが「こんなことをするのは日本人じゃない」「死刑になってもおかしくない」「日本の歴史上最大の犯罪がここで行われているんです!」「戦後最大の犯罪組織!」みたいに叫んでいた。歴史上最大なのか戦後最大なのかだけはっきりしてほしい。

 それと同時に歩道では、「ワクチンは毒」「コロナは世界的な茶番」などのボードが掲げられ、「子どもで治験をするな」「コロナワクチン中止しろ」「子宮頸がんワクチンを中止しろ」「製薬会社との癒着を止めろ」「母子手帳を廃止しろ」「国民を薬漬けにするな」などのシュプレヒコールが起こり続けていた。

 先の選挙で千葉県流山市議となった、うた桜子氏も参戦。以前から反ワクチン活動をしていた女性だ。

 「薬漬けにして病人を増やして病院のビジネスを回すためにワクチンを打っているのではないか。無念でなりません」と強い口調で言っていた。

 頼むからこういう手合いを当選させるハードルを上げてくれ有権者。

(千葉県流山市議うた桜子氏)

(千葉県流山市議うた桜子氏)

 コロナは茶番でおなじみ活動家の塚口氏も再び立ち、厚労省前の数人の警備員に向けて「そのマスク外しませんか。反戦デモとかで兵隊にお花渡してやってるみたいな感覚で。まだ自分で判断できないんですか」などとウザ絡みしていた。

 そんな異質な集団の中に、さらに異質な主張をするおじさんがいた。

「遠隔で体に痛みや苦しみを発生させたり、顔や体や身の回りに火傷を負わせたり、その人にしか聞こえない音声や映像やイメージを発生させ、精神活動に操作や攻撃を加えることが実在します。他人の目に全く見えない技術を使っています。病院に行くと統合失調症と言われてしまいますがそうではありません」

 単調なリズムながらずっと大声で怒鳴っていた。他の演説はずっとワクチンのことなのに、なぜここに「集団ストーカー電磁波攻撃」系の人が起用されたのか。申し訳ないがきっと触れてはいけない感じだ。集団も何かを察したのか、この時だけシーンとなっていた。

 あと「全部自民党が悪い。自民党を潰せばいい」みたいに言っていたおじいさんも出てきたが、マジでそれしか言っていなかったので割愛する。

 とりあえずいろいろ混ぜ過ぎなんだよ…。

 終盤は音楽の時間だ。あのさあ…。

 「クソな世の中を変えたい」。岐阜県から来たらしいラッパー唾左(つばさ)とかいうヤンキー風お兄ちゃんが「未来は俺らの手の中」「今しかできないことやれ、I do」みたいな歌詞のラップを披露した。

 「俺達国民を馬鹿にするのもいい加減にしろよ。怒りは頂点に達するでな」と叫んで締めた。俺の疲労も頂点に達していてそろそろ限界だと思った。

 主催の毛利氏が最後のシュプレヒコールを扇動した後、満を持して元祖・陰謀論ラッパーグループ韻暴論者が登場。若いラッパーに盛り上げられたもんで黙っちゃいられない。まあ、ずっと黙ってほしいんですけどもね。

 韻暴論者(予測変換できるようになったの悲しいな)は、厚労省に向けて「俺ら以上のギャングスターだからこいつら」みたいに言い、街宣車の上から中指を立てながら「子どものマスクをとれ」みたいな新曲を含めて3曲も披露した。

(厚労省前での韻暴論者のライブ)

(厚労省前での韻暴論者のライブ)

 厚労省前は日比谷公園が近くて緑も多く薄暗い、木々に蒸されたように湿度もある。そこに停められた街宣車から、音がデカく響き渡りすぎてよく聴きとれないヒップホップ。爆音に合わせ、迷惑そうな歩行者に構わず狭い歩道で、集団の陽キャチームらしきおば様たちが真っ赤な扇子などを片手に踊り狂っている。

 まるで小さい頃に絵本で見た「地獄」の光景だ。ただただ怖い。

 正午から始まって、時刻は17時前。もはや緊急事態条項とかワクチンがどうとか何一つ関係なくなっている。

 夜からの予定のおかげでフィナーレまで見られなかったことに感謝しつつ、私は帰途についた。

黒猫の雑感「通行人に絡む奴」「陰謀論の定義」

 何度も言うが、デモをやる権利はある。許可も得ているはずだ。しかし、多くの参加者は省庁への訴えを越え、そこらへんの歩行者にも話しかけて罵声を浴びせまくっていた。

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