NHKに向けられた罵声「日本人殲滅計画に加担」「ウクライナは既に平和だ(?)」…陰謀論者デモ2Days詳報(渋谷編)

陰謀論者さんデモ2日目の午前の部(中編です)
黒猫ドラネコ 2023.06.10
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NHK前に集結

 永田町でデモを終えた反ワクチン・陰謀論者の「百万人プロジェクト」の集団は、翌日土曜日の朝10時から渋谷に集合するという。

 「NHKの偏向報道に抗議する」とのことだった。

 事の発端は、NHK「ニュースウォッチ9」のエンディング映像のために、ワクチン接種後に家族が亡くなったとして被害を訴えているご遺族を取材し、「新型コロナ感染でご家族を亡くした」かのように見えるよう編集して放送したことによるもの。

 遺族を支援しながらワクチンへの反対活動を展開する「つなぐ会」を仲介しての取材だったこともあって、それらの団体の周辺が激怒。それを支持する反ワク界隈も結集したのである。

 前日から降りやまない雨の中を渋谷に向かった。

 ネット上には集合場所「NHK本社前」とあるだけ。現地にいるとのツイートもなく、どこに集まっているのか見当がつかない。

 代々木公園側の社屋正面に回ってみたところ、遠目で見ても凄まじい人数が。揃いのハッピと緑色グッズを身に付けた集団がいて「これはすごいことになった…。反ワクチン勢の怒りはこれほどまでに…」とか思いながら近寄ると、NHKホールでの初音ミク×鼓動のライブだった。

 年配の警備員さんに「デモがあると聞いたのですが」と尋ねたが、「デモ…?何の…?」とめちゃくちゃ不思議そうな顔をされてしまう。

「反ワクチン集団なんですが、百万人プロジェクトとかって」

「いや、聞いてませんね…百万人…?」

「いても100人ぐらいなんでしょうけど。NHKに抗議するとかって」

「あー、そういう連中なら大体あっちの南側じゃないかな」

「場所が決まってるんですね」

「そうそう。そういう連中は大体あっちだと思いますよ」

 そういう連中を見るために、小雨になった中を汗だくで南側へ向かう。

 確かにデモ活動には事前に警察の許可がいるので、どんな団体であろうと位置が定められているのだろう。かすかに聴こえてきたスピーカー越しの怒鳴り声。直線距離なら近いのだろうが公園の外周を通らねばならず、かなりの距離を歩いた。

 南側に到着すると、例の「自立と共生号」もしっかりいる。

 前日とほぼ変わらないメンツで40人弱が集まっていた。数が少なくてホッとするが、雨の土曜朝から熱心なことだ。(私も)

 ここにNHK党なんかが絡んできたら厄介だなと思っていたが、情報が届かなかったのか、ディープな反ワクチン思想ではないためか、来ていなかったようだ。

(NHK前に集結した人達と「自立と共生号」)

(NHK前に集結した人達と「自立と共生号」)

(NHK前に集結した人達)

(NHK前に集結した人達)

「どういう気持ちで仕事しているんだ」「出て来て土下座しろ」「お前らは殺人に加担しているんだぞ」「どれだけ犯罪行為を繰り返してるんだ」

 前日もデモ隊からやや離れて省庁に向かって「人殺しー」と連呼していた男性が、今日も単身でずっと叫び続けて全開だ。

 車の上からのそれぞれの演説内容もそうだが、どうも「NHKが遺族の声を捻じ曲げた」との事実から、「そもそも毒ワクチンを推進しているからわざとやったんだ」みたいになってしまっている。予想に反しない流れだ。

 まずは「一般社団法人武士道」という団体に所属するという女性が、「NHKの誇りを取り戻してください」のようにスピーチしていた。ちなみにこの団体は幸福の科学職員の与国秀行氏が代表を務めている。

 スピーカーに近寄らなくても終始とんでもない音量だった。道を挟んで住宅も密集している場所であり、休日の近隣住民にとってはかなり迷惑だったことだろう。

 次は「ワクチン被害」ご遺族の方が、放送への怒りを表明しながら「大切な人を亡くしてからは遅いんです」と、ワクチン接種を止めるよう演説をした。

 ここで終わっていればまだよかった。

絶好調に妨害電波?

 内容はともかく、せっかくご遺族がデモに参加したのに台無しである。なぜなら次でトンデモ集団ということが傍目から見ても完全確定してしまうからだ。

 前日も大活躍だった”陰謀論校長”石濱哲信氏が今日も絶好調なのだ。

「日本人を殲滅させるという計画があり、ワクチンによる日本人皆殺し作戦と言われる犠牲者のご遺族が自ら勇気を奮って取材に応じた内容を誰が見ても分かる捏造報道にした」「国民の前で腹を斬れ」

 そんな感じから始まり、全く今回の話とは無関係な「ゼレンスキーは戦争犯罪者」「G7サミットではー」とのフェーズに入り込んで、今日も話が長い長い。

 しかもほとんど前日に聞いた話ばかりだ。

(石濱氏(左)と主催者の毛利氏)

(石濱氏(左)と主催者の毛利氏)

 そんな中、タイミングの悪いことにスピーカーの音が途切れ、機材の不具合が起こってしまう。

 すると石濱氏はすかさず、「妨害電波が出たようです…。さすがNHKというか、まさに犯罪組織である!」として話を繋げていった。

 あんたプロや。活動家のプロやでぇ。

「戦後間もない頃から朝鮮人、韓国人がNHKに入っているのはみんな知っている」「なぜ彼らに阿(おもね)って日本人を殺すための、洗脳するための放送を続けるのか!」「ゼレンスキーは2年前まで犯罪組織にいたことはみんな知っている!なぜ放送しない!」「日本人の心をなめきっているのは万死に値する。勤務する人も日本人を殺すための洗脳をするNHKにお金をもらうことを恥ずかしく思うことだ」「豊かな日本に住む魂と優しい心の日本人を殲滅させようとしている武器そのものがNHKであることを理解すべき」「ただちに解散すべきである」

 ああ、長かった。やっと終わった。

 と、デモ参加者までも少し表情を緩めていたところ、最後に「妨害電波を出したやつは出て来い!言論の自由を封じる電波を出した奴は出て来い!」とブチギレていた。

 あんたマジで言ってたのか。

 ちなみに石濱氏は、この日2度目の演説でも延々とワクチンが殺戮兵器と主張。ナチスドイツを持ち出して揶揄したり、NHK内に中国の工作員が入っていると述べたり、「(上層部にいるらしい)CCTV(中国中央テレビ=公共放送局)、北朝鮮人、韓国人をただちに叩き出すしかない」などと話した。

 妄想とヘイト満載でうんざりの計20分だった。

 何らかの理由でご家族を亡くした方がここにいて、こういった集団と一緒に活動しているように思われるのはどう考えてもふさわしくない。

 最終的に参加者の多くはご遺族の方に握手を求め、励ましの言葉を送っていた。ご遺族の方からしても、味方がたくさん欲しい気持ちも分かるのだが…。

サンテレビが国営放送に

 すっかり雨も上がってほっとしていた頃。

 前日も大活躍していた(赤スーツを着ていた)おば様が、「NHKは隠ぺいと工作員で固められた組織だが中にいる3分の1は日本人のはずだ」「謝罪の仕方まで全ては計画されていたこと」「赤い血が流れているなら出て来て頭をこすりつけて謝罪して365日謝罪放送を流せ」などと演説。

 …まあコイツはもういいや。「何か言いたいだけ」感がありすぎる。

 昨日からひときわ威勢のいい発言をしていたもう一人の活動家の女性は、やはりなかなかの突き抜けたスピーチだった。

「NHKは嘘を垂れ流し、国民の8割に毒のようなワクチンを打たせることに加担した」「国民の8割は不安を抱えてこの先を生きなければならない。解毒を進める番組をつくり、長期間にわたって放送しなさい」

 さらに、「私は寝ているところを起こされて受信料を払わされたことがある!」とキレたと思えば、後はどんどんエスカレートした。

「毒のようなワクチンを国民の8割接種する中、危険を啓発してきたCBC(中部日本放送、愛知県)やサンテレビ(兵庫県)こそ真実を報道するテレビ局だ。国営放送を交代しろ!」

 そう叫ぶと、これにはデモ参加者も大喜び。CBCやサンテレビは反ワクチン寄りの番組を流し続けたこともあって、彼らのお気に入りなのだ。

 みんな「そうだそうだー!サンテレビに建物を明け渡せー!」と同調していた。

 サンテレビが国営放送になったら阪神ファンはさぞ喜ぶやろな…。おーん。

 あとNHKは国営ではなく公共放送なのだが、このデモ参加者の何人かの認識は異なるらしかった。

 最後はそんな勢いのまま、女性はこの集団のいつもの説を披露する。

「ウクライナでは既に戦争は終わっているぞ!いつまでも過去の報道を繰り返し、洗脳のように煽るな!ウクライナは既に普通の暮らしに戻っている!真実を知らないようだから私達が教えてやる!」

 デモ参加者も「よくぞ言ってくれた!」みたいな感じになって嬉しそうに「そうだそうだー!ウクライナはもう平和だぞー!」と合いの手。

 あー…そうだったんすね…。

 どうも、隠された真実を教えていただきありがとうございました。(棒読み)

元派遣社員の告発

 次いでこのデモのハイライトだ。

 「お久しぶりです!」と、かつてNHKで派遣社員として勤務していたという人物がマイクを持った。

 陰謀論デモでよくお顔を拝見する細身の女性。前日の農水省前では「水道に毒を流されて殺されるんですよ」と述べていた。

 実は後日、この女性のこのNHK前での叫びが「ついに内部告発!」みたいになって動画で拡散されてアレな界隈で大きな話題になっていた。

 しかし、実際に現地で全て聞いているとツッコミどころしかない個人の印象だけの話だと感じた。概要はこうだ。

 「海外から届いたフレッシュな映像がNHKのフィルターを介して流されているように見えた」

 「なんかおかしいぞと思い続け国民を騙したくないと思って悩み、カウンセリングを受けてから7カ月で辞めた」

 「ジカ熱の報道の時、(有識者の肩書きで)責任をとりたくないから『専門家』という言葉を使わず『ジカ熱に詳しい』と映像につけていた」

 「海外のニュースで言われたことと日本のニュースで言われていることが違う。なぜ日本に真実が入ってこないのか。メディア全般が真実をせき止めているからだ」

 「海外での真実がフィルターを通されて嘘になって日本人に真実が届かない。日本のメディアのフィルターを介して届けられる情報は嘘だから」

 在籍時からなぜか疑問を抱き続けていたのはよく分かったが、この話のどこが告発なのかさっぱり分からない。

 唯一、具体性があったジカ熱の話は、「こんなことしてやがった」のエピソードにしては弱すぎる。

 報道する上で分からないことは確定的に書かないという「テクニック」の一種ではあるかもしれない。ただ、その人がジカ熱を専門にしていなくて、例えば研究したことがあって「一般人よりも詳しい」のなら全く間違っていない。むしろ正しく表現したことを「責任をとりたくないから」と勝手に解釈していいのだろうか。

 もっと言えば、「ジカ熱専門家」と記そうが、そうでないから「ジカ熱に詳しい」と表記しようが、その人が変なことを口走ったらどちらにしろ放送した責任はとらされる。

 そしてその他の話は、彼女の主観だけで具体性は何もなかった。NHKは海外からの映像やニュースを全部すり替えているとでも言いたいのか? そんなことがあったら大問題で、そもそも外国人も視聴しているし、海外在住の邦人向けにも配信されているので、映像が現地の様子と違うなら普通にバレる。

 そういえばやはりこの人も前日、財務省前で「英語が分かるから」として、「ウクライナに支援なんて言ってるのは日本だけ。海外ニュースではウクライナは負けたって書いてある」と言っていた。「海外の情報」への感度はお察しである。

 また、自身が在職時に上司から叱責された体験を引き合いに出しながら、今回の「ワクチン被害者遺族」の映像についても述べた。

「私がミスした時のように、失礼なミスだと叱ってくれましたか? 叱らなかったでしょうね。仕組まれているからだと思います。仕組まれた報道だったんだと思います。真実を伝えてください」

 なんで勝手に決めつけてんだ。「仕組まれた報道」って、7カ月勤務していただけの元派遣社員に分かるのか? 「思います」じゃねえんだよ…。

 このデモ集団は納得していないかもしれないが、この件では普通に「ニュースウォッチ9」内でお詫びまでしているのだ。叱られるレベルなんてとっくに超えて始末書もんだ。

「私のTシャツにはJAPって書いてあります。日本人を侮辱する言葉です。あなた方は真実を隠ぺいすることで、日本人をJAPという言葉以上に侮辱している。誇り高き日本人はあなた方の屈辱に負けない。立ち上がって真実を広めます。覚悟しておいてください。いつまでも隠し通せないんですよ。中にいる気付いた人は声を上げましょう。こんな嘘に加担しないでください。自分の心に従って正しいと思うことをしてください」

 自分で勝手に妙なシャツ着といてなんやねんその話は…。

 女性はこの勢いのまま、最後にはNHKに向け大声で、「日本人を馬鹿にするなー!Go fuck yourself!」と怒鳴った。

 偶然にも通りを挟んだ歩道を歩いていた大柄な白人男性が「きっしょ!」と振り返りながら叫んだのを私は聞き逃さなかった。

 日本人の誇りがどうとか言うなら、せめてまともなシャツ着てちゃんと日本語で罵ってほしいよな…。

(ニュースウォッチ9への抗議のプラカード)

(ニュースウォッチ9への抗議のプラカード)

   デモ主催者の毛利氏がスピーチのラストを飾った。

「特ダネですよ!取材してください!コロナワクチン後遺症をコロナ後遺症とすり替えようとしている奴がいます!緑のタヌキ、小池百合子!」

「おい中国人、韓国人!朝鮮人!ここにいるか!ここは日本のメディアだ!日本の真実を流せ!」 

  はい。以上でした。感想は無しで。

NHKはよくない

 主張内容はさておき、何度も言うように誰でもデモをやる権利はある。

 そして今回に関しては、NHKがよくないことをしたために起こったデモであることだけは間違いない。

 取材対象の声を捻じ曲げ、自分達に都合よく映像を流したことは許されるものではない。これは反ワクチンとは別問題だ。

 それっぽい映像を作りたくて「コロナ禍で苦しんだ家族はいねえか」と探した時に、横着したのか反ワク活動家に目をつけて、「ワクチンによって亡くなった」と信じてそれを訴える遺族の主張を知りながら、「必要なところだけ繋ぎ合わせれば予定通りできるな」と都合よく映像を作ったという経緯だろうか。

 もしも「ワクチン死」と信じる人達や、それを支援して反ワクチン活動をしている方々を知らなかったなら、報道に関わる者としてコロナ禍で起きたことへの見識が低すぎる。

 「ネットDE真実」界隈は、元から新聞やテレビなどのメディアなんかこれっぽっちも信じちゃいない。(CBC、サンテレビなど一部を除く)

 だからNHK側があらかじめ「これはワクチン忌避を広めるための放送ではありません」として、取材の趣旨をしっかり理解させてから依頼しておけば、「そんなことに協力するか」「やっぱりNHKは酷い」とか言って勝手に離れて行っただろうし、こんな事態にはならなかったはずだ。

 優しく寄り添うふりをして「ついにNHKがワクチン死を取り上げるんだ!」と、誤解といらぬ期待感を与えてしまったもんだから、持ち上げられて真っ逆さまに落とされた彼らの怒りも当然である。

 界隈の動きを観察する身からしても、「余計なことしてくれたな」としか思わない。

 

 さて、午後からはこのデモの面々が銀座に移動して行進をするらしい。どうせなら最後まで観察してみることにする。

(以下はサポートメンバー限定、当日の渋谷での詳細です)

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