「ウクライナに平和を」と言いつつ「ロシア悪者論はフェイクだ!」…炎天下のご老人たちのデモ詳報
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猛暑の中、いざ出陣
気温30度を超す真夏日となった18日の昼すぎ。
翌日から開催される恒例のオクトーバーフェスト準備に慌ただしい日比谷公園である。
図書文化館横の出入口は物々しい雰囲気に包まれていた。「ウクライナに平和を」デモの行進がここから出発するのだ。G7広島サミット開催に合わせて都内でも声を上げようというものらしい。
「ウクライナに平和を」の言葉にはもちろん一片の否定の余地もないが、実は今回の集団の「停戦を」の主張には、「ロシアを怒らせてはダメ。ウクライナが譲れば戦争は終わる」のような偏った論調が透けて見える。
集合場所には、横断幕やプラカードを掲げた集団がいた。おそらく27人ほど。少人数のせいかどこか寂しげで、不安そうに出陣を待っていた。
(デモ出発地点、日比谷公園の図書文化館付近)
(掲げられていたプラカード)
彼らから一定の距離を保ち、私服警察や何らかの集団を警戒する公的お仕事(ぼかしています)の方々、ウォッチャー勢、見物人も合わせて70人以上も詰め掛けていた。
賛同者として、参政党の松田学代表や多数の活動家らが公表されていたので、かなり大規模になると予測していたが、ふたを開けてみれば警備や野次馬の方が多い。名のある参加者はほぼ見当たらなかった。
賛同者としてチラシに掲載されていた池田としえ日野市議らがすぐ近くで反ワクチン・デモをやっていたとの情報もあったが、合流しなかったようだ。
薄情だな…。
(主催者が公表したチラシより引用。デモ賛同者)
集まった参加者は男性の比率が高く、年齢層も相当高かった。あとで聞くと70代後半も複数いて、かなりご年配の方々の集まりだったことが分かった。
マイクを持った主催の高齢男性が「このままでは第三次世界大戦が起こる」「和平こそ日本の国益なんだ」のように演説した。(なんだその手前勝手な話は…)
集団から「そうだー!」と声も出るものの、おとなしそうな高齢者が多い印象で、あまり士気は上がっていない様子だった。
主催者は「しんどくなったら抜けて休んでください。塩飴をたくさん用意しています。自分の健康を第一に」と注意を発していた。この気温ではさすがに「暑さに負けず」なんて言えないのだろう。
主催者はまた、周囲の人だかりを歓迎し、事前に名刺でももらったのか「きょうは〇〇新聞の方も来てくれていますよ!」と嬉しそうに名指し。記者の方が「うわ…やめてほしい…」と恥ずかしそうにしていた。
定刻になり、警備員が誘導していよいよ行進スタート。
先導の警備車両がゆっくりと動きだし、ウォッチャー勢もカメラを手に、警官とともに沿道を一斉にバタバタと走り出した。
下手すりゃデモを追いかける人達のほうが行進よりも迫力があった。
(日比谷公園を出発したデモ隊)
噛み合わないシュプレヒコール
あまり聴きとれないことも多かった反ワクチン派や神真都Qの街宣などと違い、マイクの音量がかなり大きい。巨大スピーカーが利いていたのだろうか。
まずは小柄なおじ様が紙を見ながらシュプレヒコールを始めた。
内容は次の通りだ。
(主催者発表のシュプレヒコールより引用)
これまでに見てきた他の陰謀論デモでは、それぞれがアドリブで何らかの主張をして、ブリッジ(つなぎ)的に全員でシュプレヒコールという流れが多かった。
だが今回は、事前に決めて紙に書いてきた言葉をほぼ延々と繰り返してコールするだけだった。これが日比谷公園を出発して銀座・有楽町前を経てから京橋・八丁堀方面へと抜けるまでおよそ1時間続いたのだ。
追うこちらとしても、ずっと同じセリフを聞きながらの炎天下のお散歩状態。私などは途中で何度か「これつまらんな…」「もう飽きた…」「あちいし帰ろうかな…」などと、沿道で雨宮純さんらに文句をたれて、励まされる始末だった。
もはや私の興味は、デモ隊がどのタイミングで塩飴を取り出すか、だ。取り出したとしたら「僕も一つもらっていいですか」と声を掛け、もらって食べたら食べたで「ぐっ…こ、これは…?」と苦しむふりなんかして「黒猫ドラネコさんってこんなユニークな一面もあるんだなあ」と他のウォッチャーさんを和ませようとか。そんなことばかり考えながらトボトボと歩いていた。とにかく暑い。
(炎天下の行軍であった)
退屈な中で、いくつかの見せ場があるにはあった。
まず、下校中の小学校低学年ぐらいの集団が、近付いて来るデモ隊に向かい「おーい」と手を振ってしまったのである。ウォッチャーや警官らが「うわぁ、マズいな…」と思わず目を見合わせたのは言うまでもない。
スピーカーから「ロシアの一方的悪者論はフェイクニュースだー!」「ロシアを敵に回して喜ぶのはどこだ?中国だー!」などの大音量が流れる中、無垢なちびっこたちが「がんばれー」「なんの行進ですかー」などと声をかけ、これには汗だくで疲れを見せ始めていたデモ隊も「ありがとーありがとー」と嬉しそうに手を振り返し、慣れないサムズアップをしてウインクをして見せたりしていた。
通り過ぎた後に「なんかおじいさんたちだったね…」と呟きが聞こえてきて面白かった。
(銀座周辺を行くデモ隊)
次に、銀座を訪れる海外からの観光客にもアピールしたいとばかりに、シュプレヒコールの英語版が用意されていた。
「次、英語いこう英語」「誰?誰が言うの?」「おれは無理だよ、わははは」などとわちゃわちゃした後、「愛国女子」とかいうYouTubeを運営するサングラスの中年女性がデモ隊先頭での撮影を止めてマイクをとり、完璧な発音で英語バージョンを披露した。
これには皆さん「おおー」「かっこいいー」とご満悦。ウォッチャー勢も、動きの少ないこのデモにおける数少ないイベントととらえ、「きた!英語きた!」と盛り上がる。
しかし、多くの参加者が英語でのコールを恥ずかしがってか繰り返すことができず、「フェイク・ニュース!」みたいな聞きとれる単語以外は日本語でバラバラに叫んでしまうというぐだぐだっぷり。
ターゲットであろう外国人をほとんど見かけなかったこともあってか、英語でのコールを2、3回ほど繰り返した後に、「そろそろ戻そう」「かっこよかったよー」などと言って日本語版に戻して「こっちの方がみんな分かるよなあ」などと笑い合う老人たち。
そこで差し掛かった次の横断歩道で外国人観光客の集団に遭遇してしまい、「(あっ…!)」と見て見ぬふりの感じになって微妙な空気が漂う。何とも噛み合わない状況だった。
また、これはデモ隊の動きではないが、あらかじめ警察が信号を操作して(止めて)周囲の歩行者に理解を求めながらデモ隊を優先的に渡らせたりするのだが、今回はそこで、沿道から行進の横に飛び出した方々が一斉にザッと「警視庁」と入った赤ジャケットを羽織った。「公務で止むを得ず車道に出る」と示すためだろうか。
スーツ姿で歩行者に紛れて沿道を歩いていたが、実は警官だったと明らかになる瞬間である。その動きがあまりにもカッコよく、「おおっ!」と沿道の方々もどよめき、スマホを手に撮影する人も多かった。始めから制服の方が多い他のデモ警備ではあまり見られないシーンだった。
思想の強いデモ活動では必ず、この他にもしっかり隠密的に集団を監視する方々がいる。そうして市民の安全が守られているのだ。警察の皆様、いつも本当にお疲れ様でございます。
(ジャケットを一斉に羽織った警察の方々)
終着点での演説
予定よりも30分以上早く終着地点に辿り着いた。
宝町付近の首都高速の下、オフィス街のための喫煙場所がメインになっているような小さな公園である。
「お疲れさん」「いやあ、よく歩いた」「〇〇さん大丈夫でしたか」などと互いに労いの声をかけながら無事に終了である。見たところ体調不良者も出なかったようだ。
「記念写真を撮ろうヨ」と、並ぶご老人たち。頼まれてもいないのに空気を読んで「いきますよー」「もう一枚でーす」などと自分のカメラで撮るウォッチャーたち。なんだかよく分からないが微笑ましい光景である。
(解散場所で記念撮影するデモ隊)
主催の男性はマイクを持ち、「これは歴史に残るイベントだと思う。日本人が世界に向けてウクライナに平和をと言ったのは初めてではないでしょうか(?)」「平和を求めるなら必要な時に必要なことをやらないといけない。英語でも発信して効果があったと思う。LGBTもワクチンの問題も、同調圧力に負けず、奴隷にはならないというメッセージを発していかないと」などと誇らしげに述べていた。
激しい言葉にも思えるが口調は穏やかで、警備担当らしき警官に「あの…病院が近くにありますので」とマイクパフォーマンスを短めにすることを要請され、ものすごく素直に従っていた。
三々五々に解散してしまうらしく、慌てて参加者の取材をしていたらすごく歓迎された。「君もおいでよ」と優しく喫茶店に誘われたが、予定があったので丁重にお断りした。色々とこちらが求めていた(?)デモと違ったのは言うまでもない。
(以下の後半部分では黒猫の雑感、取材した様子などを)
黒猫の雑感。参政党が裏切り? 参加者の発言から見えてくるもの
「ウクライナに平和を」としながら、まるでロシア寄りのような不穏な主張が散見され、開催前にはウクライナ関係者からの注意喚起があるなどして、かなり警戒されていたデモだった。それが警察の多さにも表れていたと思う。
私のスタンスとして基本的には「踊り子に触れない」で、直接ウォッチ対象の声を聞くことは多くないが、せっかくなので主催者や参加者に話を聞いてみることにした。