「子育てにもリテラシーを」品川区からワクチン啓発活動など開始。コソリテ創設の主婦に訊く(特別インタビュー)
どうも、黒猫ドラネコです。
やはり秋は短いようで、寒くなってきましたね。
当レター記事は登録者にメルマガ形式で配信され、ネット上でも見ることができます。おかげさまで開始から1年足らずで50万PVに届く勢いで、個人メディアの初年度としては上々なのではないでしょうか。
今後も積極的にエセ・スピリチュアル、疑似科学、ニセ医学、行き過ぎた自然派、反ワクチン、陰謀論などを監視して発信していきます。
そんなトンデモ観察のレターではありますが今回は特別インタビュー企画です。(以前のLumediaの時もそうでしたが、こうして真面目なインタビューもやるのに「トンデモ観察記」というタイトルはどうなんだとちょっと後悔しているところです…)
品川区のある地域で、住民の力によってワクチン啓発活動が始まったことを知り、話を聞いてきました。
ネット上に反ワクチンなどの不確かな情報が蔓延する昨今、地域の子育て世代の方々に正しい情報を知って不安を解消してもらいたいという思いから、たった一人で始めたそうです。
今月1日、「みんなで知ろうHPVプロジェクト(みんパピ)」理事の重見大介医師(@Dashige1)(産婦人科専門医、医学博士)を招いて講演が開かれました。
小学校低学年の子連れのお母さん方も参加する中、講演内容は包括的性教育と、子宮頸がん予防のワクチンについて。私もツイッターでフォローさせていただいている重見先生の分かりやすい解説があり、参加してよかったと心から思えるものでした。
講演に関しては実際に聞いてもらうのがもちろん早いのですが、まずはインタビュー記事の前に、せっかくなので重見先生の説明や資料からまとめてお伝えします。ご存知の方もそうでない方も、一度ぜひ目を通してください。
HPVワクチンについて
2013年に定期接種が始まったHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン。ネガティブな報道や副反応の誤解拡散などに屈した形になって差し控えられていた積極的勧奨が、今年4月にようやく再開されました。
日本の接種率の現状は、やや上向いたとはいえ14パーセントほど(みんパピ調査)。
およそ90パーセントが接種するノルウェーや豪州などとは比べ物になりません。海外からも日本の状況には疑問の声が上がっています。防げるはずのがんを積極的に防がない流れなのですから意味不明です。
子宮頸がんの原因は95パーセント以上がHPV感染。HPVはありふれたウイルスであり、主に性交渉によって、女性のおよそ80パーセントが一生に一度は感染します。
感染者の10パーセントが軽度異形成、そのうち15パーセントが中等度異形成という細胞の変化を辿り、そこまでは正常に戻る見込みもあるのですが、そこから25パーセントは治療が必要な高度異形成になり、さらに20パーセントががんに罹るのです。
驚くべきことに毎年およそ1万人が子宮頸がんと診断され、年間死者数はおよそ3000人にのぼります。
(国立研究開発法人国立がん研究センターより、がん種別統計情報・子宮頸部)
スウェーデンでのHPVワクチンの有効性の研究では、16歳までの接種群の浸潤がん発症リスクが88パーセント減少という結果が出ています。特に若年のうちに接種すれば効果が期待できるものです。
今回のレターの執筆をしていたところ、実にタイムリーなニュースが飛び込んできました。
これまで、小6~高1の女子を対象に無料で接種できるものは、2、4価のHPVワクチンでした。9価は簡単にいえば200種類以上あるHPV(ウイルス)の型に効果を発揮する範囲が広がり、より予防に期待できるようになったものです。豪州などでは既に9価が用いられています。これは朗報だと思います。
いろいろと数字やデータを並べてみましたが、それでもワクチン接種で心配なのは副反応ですよね。今回の重見先生の講演でもそのあたりは重点的に触れられていました。
厚労省などによると、女性が一生のうち子宮頸がんとなる割合は1万人に132人。その9割は子宮摘出などの侵襲的な治療が必要です。一方でワクチン接種の有害事象のリスクとして、失神などの重い症状は1万人に5人。その9割が回復しています。
エビデンスレベルが極めて高く、世界的信頼を集める「コクランレビュー」でも、ワクチン接種群とプラセボ投与群でも重篤な副反応の発症率に有意差はなく、流産や妊娠に関するリスクもないとの結果になっています。
このような科学に基づいた話をどれほどの人に広めて理解を深められるかは、国や自治体の努力が不可欠です。
自ら探せば公的な発信には辿り着きますが、そのために最も力になるのは口コミレベルの身近な繋がりだと思うのです。トンデモ話や「なんとなく怖い」という医療の忌避はじわじわ伝わっていきますが、その不安を解消するために情報の共有ができて気軽に話を聞ける場所を作ることが大事だと思います。
だからこそ、草の根の活動でも、きちんとした医師の方々と繋がり、正しい情報を拡げられるのはとても意義があることでしょう。
今回はその起こりを目撃できたと思って、インタビューを敢行しました。
それでは記事をご覧ください。
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品川区在住の主婦が、このほど親子向けのワクチン啓発活動などを始めた。
今月1日、同区に産婦人科専門医の重見大介氏を招いて、包括的性教育、子宮頸がんワクチン接種についての講演を開催。中高生の子を持つ母親や、小学校低学年の子育て中の世代が参加し、疑問や不安を解消する場所を作るための第一歩を踏み出した。
主催したのはコソリテ(@kosolite)さん。
(コソリテのロゴマーク)
どのような思いで活動を立ち上げ、企画を進めてきたのかインタビューした。
▽
コソリテさん(以下敬称略) 昨年4月9日「子宮の日」に朝日新聞に広告が出ました。「もう『知らなかった』という理由で、死なないでほしい」。医療デマやトンデモは人の健康、命を奪い、子どもたちを苦しめるのだと思いました。
ご縁あって、この広告を出した「みんパピ!」の重見先生が講演会をしてくださることになり、「親子で学ぼう『性とHPVワクチン』」を第1回のテーマにしました。
(朝日新聞に掲載された一面広告=みんパピ!のサイトより)
▽なぜ「コソリテ」という名称に?
コソリテ 産婦人科医の宋美玄先生たちの著書(各分野の専門家が伝える子どもを守るために知っておきたいこと=メタモル出版)の帯にあった「子育てにもリテラシーを!」というフレーズに大変感銘を受けまして、宋先生からも許可をいただき、省略して「コソリテ」としました。本当にありがたいです。個人の活動ではありますが「コソリテ」という活動名で今後もいろいろなイベントを企画していきたいと思っています。
▽「中の方」の経歴は?
コソリテ 私は昭和54年8月生まれ(43才)、品川区に住む専業主婦です。地元の小学校に通う5年生と1年生の息子たちがいて、2人とも少年野球チームに所属しており、週末は野球三昧ですね。
▽そんな主婦の方がこうした啓発活動を始めようと思ったきっかけは?
コソリテ 親族に非科学的なものを信じてしまう方がいて、それって一体どんな思想なんだろうと医療デマなどについて調べるようになりました。私の周りでも「HPVワクチンなんて怖いから打たせない」「新型コロナワクチンは子どもには必要ない」「感染すれば最強の生ワクチン」という認識の保護者が思った以上にたくさんいましたから。
非科学的な思想の最大の被害者はやはり「子ども」ですよね。子育てにも「科学的に正しい情報を正しく理解し、活用すること」の重要性について考えるようになりました。
▽個人で活動を始めるまでに、どのように動いたのでしょうか?
コソリテ まず朝日新聞に掲載された「みんパピ!」の広告を息子たちの学校に掲示してもらえないか掛け合い、PTA文化広報委員にも志願して重見先生の講演会を企画して、順調に話が進んでいました。
ところが「各家庭の多種多様な考え方を考慮する必要がある」という理由で講演会が見送りになってしまいまして…。もう持ち出し覚悟で、自分でやるしかないと思って今回の講演に至ります。次から次へと壁に当たってへこんだり、不安になることもありますが、あのまま学校で開催していたら今回の参加者の方々に出会えることはなかったので。そう思うと胸が熱くなりますね。
▽今やネットには反ワクチンなどの言説が溢れてしまっています。コソリテとして考える喫緊の課題は何ですか?
コソリテ まずは「正しい情報の取り方、見分け方」を多くの人に知ってもらうことですかね。テレビ、新聞、雑誌、書籍、ネットには情報が溢れていて、私も出産直後はどれを信じたらいいのかわからなくて精神的に辛い時期がありました。私は「こびナビ」や「みんパピ!」の先生方にそれを教わりました。教えていただいたことを生かして活動していけたらと思っています。
Twitterを見ていると、反ワクチンの方のお子さんが不登校になってしまうケースも多いように思います。小学校に入ると世界が一気に広がり、(親なしで)他人と個々に接する機会が増えるので、今まで自分が家で言われてきたことや教えられてきたことと違うことが多くて戸惑い、結果的に適応できなくなってしまうのではないかと。
自治体にも相談してみたのですが、やはり「親権」がある限り介入はできないそうです。殴る蹴る、ネグレクト等の虐待とは違うので難しいですよね。
▽活動を通じてどのようなことを伝えていきたいですか?
コソリテ 日本では長年、「人それぞれの考え方があるから」とニセ科学が教育現場に入り込むことを許してきてしまいました。その結果、水からの伝言、江戸しぐさ、親学、胎内記憶(※1)の誕生学などのトンデモを授業として取り入れてしまう学校があったり、はどめ規定(※2)のせいで子どもたちに「性」を教えることもできなくなってしまいました。
もちろん「人それぞれの考え方」があっていいと思うし、和食が好きな人もいれば洋食が好きな人もいる。小中学受験をするおうちもあれば、しないおうちもある。しかし、科学的に間違っているものは間違っているんです。これを「それぞれの考え方」とこれからも事なかれ主義で見過ごしていいのかと。
人の不安や心の隙間に入り込む「ニセ科学」は、これまでも様々な形で多くの人を苦しめてきました。子どもたちにも影響を及ぼし、子どもたちの心も体も傷付けてしまいます。
「医療デマ、トンデモ、ニセ科学は誰かの人生を奪うことがある」という事実を、ぜひ多くの方に知っていただきたいです。
(※1)胎内記憶… 産まれる前のことを覚えていて話すというファンタジーを利用して「子どもは親を選んで生まれてくる」「障害を持っていたり虐待を受けたりする運命を自ら望んで生まれる」などとするスピリチュアル思想。またはそれらを広める団体の総称。
(※2)はどめ規定… 学習指導要領で、性交や妊娠に関する記述を制限する規定。これにより性教育の取り扱われ方が過度に慎重になっているとの声も上がっている。
▽活動にあたって、資金面や施設利用などで苦労されたのではないですか?
コソリテ 会場を押さえるにあたり一番苦労したのは予約方法です。どの施設も区に登録済みの団体が優先されるため、私のような個人は1~2ヵ月前に「空いているところ」でしか予約が取れません。それでは講師のスケジュールを押さえることができず、告知活動も始められないので事実上、活動が不可能となってしまいます。
今回は急な予定変更にも関わらず、重見先生、エコルとごし(施設)さん、そして近隣含む町会の皆さまにご協力いただけたことで講演会を実現することができたので感謝の気持ちでいっぱいです。
▽継続的に活動をしていけそうですか?
コソリテ 今後も活動を続けていくためには、自治体のバックアップが必要不可欠なので試行錯誤している最中です。できれば参加費無料で開催したいので費用面についてもバックアップしてもらえるとすごく助かります。「品川区はこういう活動にも力を入れているんだ」という宣伝にもなりますし。
それまでの間はクラファンをしてみようかなとも考えています。やりたい企画、進めたい企画はたくさんあるのに先立つものがなくて、もどかしいです。
今のところ講師への謝礼、印刷代などの雑費が主な必要経費です。活動を継続するためにはどうしても自治体のバックアップが必要なので引き続き交渉を頑張っていきます。
▽今後はどのような講演を企画したり、どんな活動をしていきたいですか?
コソリテ まずは来年1月に弁護士の先生を講師としてお招きし、子どもの人権やいじめについての講演会を企画しています。「いのちは大切」「生きるって素晴らしい」など気休めの言葉ではなく、辛いときや困ったときに「助けを求める具体的な方法」を子どもたちに伝えていきたいです。ゆくゆくは2ヵ月に1回程度のペースで開催できたらと思います。
・子どもの年代別「包括的性教育」
・コンドーム試触会
・子どもの新型コロナワクチン
・インターネットとの付き合い方、ネットに潜む危険
テーマはたくさんあります。もちろん引き続きHPVワクチンについても学んでいきたいと思っています。
これからも親子で一緒に勉強して、科学的に正しい知識を身に付けたいと思います。
(聞き手、構成・黒猫ドラネコ)
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重見先生、コソリテ様、ありがとうございました。
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当レターは今後もトンデモ観察や注意喚起だけでなく、正しい医療知識を広める人の活動を応援していきます。
真面目なこともやるのです。今後ともよろしくお願いします。
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