【詳細レポート】4・13反ワクチン池袋デモ行進。「目覚めた」中高年が過去最大規模の集会(前編)
さあ、この春の一大イベントだ。
4月13日(土)に都内でおこなわれた反ワクチン集会、そして「パンデミック条約反対」デモ行進を私の目線からお伝えしていく。
まずは午前9時半から。大江戸線牛込神楽坂駅の真上にある牛込箪笥区民センターにて、この界隈のインフルエンサーたちが一堂に会して講演した。
午後からの池袋デモ行進に向けて「決起集会」である。
(決起集会とデモ行進のチラシ)
追い出された皆さんと
例によって潜入を試みた私も9時前には到着していたが、既に駅前は大混雑。400人収容の会場に、おそらく倍以上の観覧希望者が殺到していた。
粘ってはみたが入場ギリギリで打ち切り。悔しい…のか?なんなんだこの感情は。
ロビーまでは入れてもらえると知ったお客さんとともに階段を上ってなだれ込んだが、そこではITジャーナリストの深田萌絵氏が自分の出番まで著書を売っていただけだった。なんなんだこの感情は。
(ホール前のロビーで著書を売っていた深田氏)
深田ファンではない方々は人だかりの売り場を覗き込み「チッ、なんだよ…」(分かるぞ)となって、その場で粘ってみてなんとか入場できないか、講師が変わるたびに客席の入れ替えはないのかと右往左往した。
しかし「立ち見あり予約不要」との触れ込みもあったのに、「ここに留まらないで」「消防法の関係でもう入れません」「外に出てライブ配信を見て」と追い出されてしまった。
会場裏にある狭い児童公園では、行き場をなくした者が不満を述べながら遊具に腰掛けたりしてスマホでライブ配信を眺めることになった。
住宅地と密接していて、普段は子ども達しかいないはずの日曜午前の憩いの場に、突如としてよく分からない中高年の大集団が現れたことになる。近隣住民の多くが心配そうに窓から覗いていた。
やはりスタッフから「ここは子ども達の遊び場です。他の場所へ」などと指示が飛ぶ。みんな公園出口付近までしぶしぶ移動した。反ワクチンの同志(私を除く)なのに、ここでも自分達は受け入れてもらえないの?という哀愁が漂っていた。
そうこうしていると、講演を終えたのか須藤元気議員(13日時点の肩書)が颯爽と登場。衆院東京15区補選に出馬を表明した、この界隈の英雄だ。
「会場に入れなくてよかった」とばかりにみんな大喜び。一気に人が集まり、須藤氏はサービス精神なのか何やら演説を始め、その場で握手会でも開始しようとした。
(会場裏の公園に現れた須藤元気氏を囲む人々)
…が、ダメ。
またもやスタッフから「騒ぎになると警察が来てしまうから…」と制止が入ってしまった。すでにこの状況を見ていた警察の方がボソッと「もう来てるよ」とつっこんだのが面白かった。こんなイベントを警視庁がマークしないはずがないのだ。
短時間で「じゃ」と手をあげ、颯爽と去る須藤氏。講演会場に入れなかったおかげで反ワクチンさんにとってのヒーローとの交流、という幸運はスルリ逃げ、再び寂しそうな皆さん。
結局、大勢が居座っていたこの公園に主催者側の女性が現れ、「皆さま入れなくてすみません」と謝ることになった。
この女性が動画配信者としてこの界隈で有名だったこともあり、「おお、あの人か」と独特の理解が広がった。(いや誰なんだよ)この女性に連れ添って「実はYouTuberのパイオニアなんですよ?」などと紹介されたおじ様もいた。(だから誰なんだよ)
その場でなんやかんや「いつも見ていますよ」「動画がBANされて大変ですよね」みたいな一般人には微塵も分からない和やかな雰囲気が広がる。そんなんでいいのかお前らは…。
これにて児童公園からはじわじわと人が消えていった。
(裏の公園で謝った主催者側の動画配信者たち)
しかし、会場入り口付近でも騒ぎが起こっていた。
ライブ配信を視聴したくてたむろする者が増えてしまい、区民センターの職員さんらしき人が困惑しながら対応している。「ここで~したら講演はもう中止ですよ」みたいな穏やかではない言葉まで聞こえてきた。主催スタッフの顔色が変わっている。
そんな苦労も知らずに、敷地内や前の歩道で、WCH(World Council for Health=ここの人たちが憎きWHOに代わる組織にしたい国際的な反ワクチン団体)のピンク法被を着たメンバーらが爽やかな汗をかいていた。ここではみんな変な顔をせずにチラシを受け取ってくれるし、署名だって簡単にしてくれるのだ。
もちろん「宗教勧誘など」は区民センター利用の規約違反。主催スタッフから「法律に引っ掛かるので東池袋に移動してください!」とドストレートな呼びかけがあった。
もう今後この会場は使わせてもらえないのではないか。なぜもっと広い施設を選ばなかったのか。なぜ入場無料で予約不要にしてしまったのか。そしてなぜ池袋から距離のある場所で決起集会をやったのか。(めんどくせえんだよ移動すんのがよ)
早くも主催者の調整の甘さが浮き彫りとなった。先が思いやられる。
(大混雑していた区民センター入り口)
主催者の方々について
早すぎるが、念のためデモ行進の集合場所の東池袋中央公園を下見に行く。
既に100人ほどは座ってスマホで講演のライブ配信を見ていた。予定まではあと3時間はあるが、準備も仕切りもされていなかった。このため私は、神真都Qの第1回デモ行進がおよそ1500人だったことを思えば、おそらくそれと同等ぐらいの規模なのではと考えていた。
昼食をとって、予定30分前に再び集合場所へ。
私の甘い予測は見事に裏切られ、もう公園内は満杯だった。最初は頑張って数えていたが、途中であきらめた。ざっと2000人以上は確実にいる。中高年、高齢者がメインだが、家族連れや小さい子どもの姿もあった。
特定のグループの集合の目印なのだろうか。「愛知」「福島」「長野」など、このために上京したことをアピールするような看板も目立った。「神奈川」とあったので、心の中で「来れるだろ」と一応つっこんでおいた。
(東池袋中央公園に集まった人々)
予想をはるかに上回り、主催者も驚きの色を隠せない。中心人物は活動家の佐藤和夫氏。元自衛官で、以前「ウクライナ侵攻のロシア悪者説はフェイク」「LGBT法案に反対」などをテーマに銀座を練り歩く「目覚めた高齢者たち」を率いたおじい様だ。
ちなみに以前のデモの際に取材したことがあるので、今回も「すごく集まりましたね」と話しかけると「ええ、本当によかった。すごいことですよ」と、とても嬉しそうだった。
物静かで穏やかで裏のなさそうな御仁だが、特に保守系の「ネットDE真実」で繋がりそうな界隈と界隈の架け橋になってしまいがちだ。
以前のデモには韓国のキリスト教系カルト宗教の関係者までいた。来るもの拒まず「この指とまれ」のスタンスは今回も同様で、「パンデミック条約反対」というワンイシューで色んなインフルエンサーを片っ端から集めることに成功し、この大規模なイベントに至ったのだ。
公園を埋め尽くした参加者を眺め、主催者グループのご老人は大感激。壇上から「(佐藤氏らと)たった3人で始めたことなんです」などと語り、拍手を浴びて思わず目頭をおさえていた。
彼らが始めたのは、ネット上での陰謀論チックな言説を信じた右寄りの高齢者の方々によるデモ活動(毎回50~100人ほど参加)だったが、今日ついに夢のような大規模集会に成功したのだ。
主張を絞って反ワクチンの著名人やそれに賛同する政治団体などに声をかけると、これだけの人を集められる。今回でその味を知ってしまったことだろう。
実はこれ、以前のデモ観察でこの人らに感じていた危うさだったのだが…。
黙とう、お経から
やはり主催者周辺は、保守系の方々がメインだった。
東池袋中央公園を出発地としたのも、ここが「巣鴨プリズン跡地」ということが大きかったようで、新党くにもり(チャンネル桜)が関西方面などからも訪れ、「国守衆」のジャケットを着用した集団がいた。「頑張れ日本!全国行動委員会」などののぼりがメインステージ付近に立てられ、カンパ募集をしたりして仕切っていた。
デモ行進スタートに先駆けては、新党くにもり代表の水島聡氏と主催の佐藤氏がステージ横のしげみ奥にある慰霊碑の前まで移動。そして、巣鴨プリズンで処刑されたA級戦犯らへの黙とうが捧げられた。
会場には何の説明もなく(あるいは聞こえず)、全く状況が分からずに「どこにいるの」などとしばらくざわついた満員の群衆も、みんなじわじわと目を閉じた。
公園を静寂が包む。そして大きめの「チーン」の音と、水島氏らの唱えるお経がスピーカーを通じて響いてきた。
(慰霊碑前で鐘を鳴らす水島氏)
(黙とうをささげる参加者)
(お経を唱える水島氏)
…いや、これ普通に右寄りのデモじゃねえか。
パンデミック条約も反ワクチン思想も全く関係ねえ、とツッコんでは負けだ。
どう考えても特定の政治団体が仕切ってしまっている。「右も左も越えて集まろう」なんて言っていたはずなのに、偏り過ぎである。
集まった人の大半もこの側面は分かっていなかったようで、やはり「これってどうなの?」と、ちょっと不満そうな参加者はいた。
そして軽いハプニングもあった。壇上での開始挨拶の最中に、立てかけていた「パンデミック条約反対!」の横断幕が崩れ、なんと佐藤氏の頭にバッサーっと落下したのだ。
そんなに強い風はなかったのに…ひええぇ…。
せっかくスタート地に選んで祈りを捧げたのに、なんとも不吉な幕開け。いや、むしろ「英霊たちも来てくれているんだ!」と思った人もいたりして。
(主催者の佐藤氏に落下した横断幕)
池田議員のMCで進む
さて、ステージには日本の反ワクチン運動における生き字引、毎度おなじみ日野市の池田としえ市議会議員が登場。大歓声で迎えられていた。
…まあ来るわな、この人は。
(壇上から叫んだ池田としえ日野市議)
真っ赤な洋服で、ドンドンと足を何度も踏み鳴らした池田議員は、「右翼とか左翼とか言われてきたが、保守や革新がどこにいるってんだ! もう保守とか革新とかイデオロギーを乗り越えて人の命を救うことに目覚めた人こそ日本を救う唯一の戦士である!」
「私がマイクが握っているのではなく皆さま一人一人が壇上でマイクを持っているという気持ちで私を見てもらいたい!」
「後世にプレゼントしていくデモである!」
などと聴衆を沸きに沸かせていった。叫び続ける池田センセイの独壇場になり、主催者のご老人たちはほとんど目立たなくなってしまう。
これ以後はデモ行進が終わるまで、ほとんど池田議員の仕切り。導かれるように多くの「反ワクチン・インフルエンサー」が挨拶していくことになった。
ステージに立った井上正康氏(大阪市立大学医学部名誉教授)は、ふくろうのぬいぐるみを片手に「反社から天皇陛下までみんなワクチンの被害者です」「超党派、あるゆる職業、年齢の方々が一致団結してやらなければ日本人が根絶やしにされてしまう。情報を使った第三次世界大戦の最中にあります。目覚めて仕事をしなければ子どもや孫がツケを払わされる」などと語った。
(壇上の井上正康氏)
声援を集めていたのは、参政党とも関わりが深い林千勝氏(近現代史研究家、ノンフィクション作家)だった。この人は以前、同党の政治資金パーティーで「安倍元総理狙撃の真犯人は他にいるから調べろ」などと持説を展開したセンセイである。
ファンの多いSNS上で、今回のデモの呼びかけを最も頑張っていた林氏は「全世界の皆さん、この巣鴨プリズン跡地から我々は日本を取り戻そう!今から日本は生まれ変わります!」と大興奮で叫び、観衆を「うおおおおっ!」と唸らせていた。
(挨拶で群衆を沸かせた林千勝氏)
こうして、次々と反ワクチン界隈の有名人たちをアテンドして進めていく池田議員。
もともと主催者のご老人たちの声量が小さく聞き取りづらかったこともあって、池田議員が「ここの間から出発しますからね」「並んで!」「こっち移動して!」などと大声でテキパキと指示を出さなければ、この集会は全くコントロールできていなかったに違いない。
主催者がこの人を最初に頼ったというのも分かる気がする。
(次回の後編はいよいよデモ行進が池袋の繁華街へと出発。沿道から見たあれこれを送ります。以下はサポートメンバー向けに、参加人数の分析や写真など)
デモ参加人数の詳細
ひとまず参加人数の分析をしたい。
行進前に主催者は壇上から「もう3000人ぐらいはいる。このままだと5000人は来るだろうからとても入りきれません」と興奮気味に言っていた。それもそのはず、警察には「800人」で申請を出していたそうだ。
なのに最終的な参加者数は主催者から「1万9000人」と発表されたらしい。超満員だった公園を眺めて「5000人は来るだろう」と言った当初の見立てから、4倍近くの数字になったのはどう考えても多すぎである。
現地での私の概算では、多くても5000人を超えるぐらい。同じく最後までデモを見た私が信頼するウォッチャーの一人の見解ではもっと少なく、5000人まではいなかったという。
断っておくが、根拠を持って正確な人数を出すとしても、十分に大規模で驚くほど熱気があったとは思う。「盛り上がっていなかった」なんて捏造したいわけでは全くない。
主催者発表だから事実と違ってもいいとするのは勝手だが、いろいろ「真実を」とか言っている運動で嘘や大げさがあってはよろしくないと個人的には思う。
なぜ参加者数がかなり多めに発表されたのか。それは現地取材で分かった。